企画 | ナノ

たぶん、意味はなかった。長かった髪を短くしたのも、笑わなくなったのも。意味なんてたいそうものはなくて、ただ、やりたかっただけだった。
フランスには勿体ないと言われた。でも、そんなこと構ってられるほど私に余裕はなかった。そもそも、この髪も、目も、私のものじゃないから。



フランスにとって名前は不思議な人であった。少なくとも、同じ国とは思えない性格だった。そもそも、彼女が「スペイン」であることに、昔はよく疑問を感じたものだった。スペイン人はどちらかというと明るく情熱の人であった。比べて名前は控えめで情熱とはかけ離れていた。似ているのは東洋の日本人がしっくりくる(とはいえ彼女は前世が人間らしいのだが)。
不思議なものである。
それでもその謙虚さや辿々しさが妹のようで、それでいて戦場ではしっかりと地に足をつけてその身に似合わない大斧を奮う。その様子は勇ましかった。同時に戦場に出るたびに憂鬱な思いを募らせているようだった。無理に戦うことを強いられそれに致し方なく従うように。
それはまるでフランスのために身を捧げた少女に似ていた。
愛しかった。
フランス、とたまに見せた綻ぶような笑みも、頼りなさも。
それでも、彼女は「太陽の沈まぬ国」と呼ばれた。強さがあった。フランスが欲し、彼女が何よりも嫌った強さが。


──戦いなんて、なければいいのに。愚かすぎる。死んでいった彼らがなにをしたっていうんだろう。国のため、確かにね。確かに、それは本当に国のためだったの。でも国のためでしかなかったの。私はどうしていればよかったのか、分からない。国が、私でなければよかったのに。国として割り切れる「誰か」であればよかったのに。

お粗末な墓の前で、彼女はフランスに淡々と呟いていた。彼女は泣いていなかった。



名前にとってフランスは国でしかなかった。それでも、それは立場上のものだった。
人間であった彼女に国は客観的な名称にしか思えず同じ国だという人の形をしたそれは人にしか見えなかった。
ゆえに、傷つけることを躊躇ったし、戦うこともなおのことだった。
彼女は知っていた。「スペイン」という国がどの国と争い、どの国に勝ち、どの国を征服し、どの国に負けるのか、大方ではあるが知っていた。
フランスという存在は、敵であった。少なくとも、彼女の年表ではそういう立場であったのだ。それでもずっと付き合っていれば分かった。
彼は、いや、彼らは国である前に人間だった。

フランスは生粋のフランス人であった。女に優しかった。料理が上手かった。話が上手かった。芸術が好きだった。
そんな彼は嫌いではなかった。けれど羨ましかった。彼は純粋なフランス人であれた。けれど名前はスペイン人にはなれなかった。彼女は日本人だった。
茶色の髪も、日本人離れしたエメラルドのような瞳も持っていたけれど。


─俺達は国だ。だから戦わないといけないんだよ。


彼はその鋭い切っ先で名前の腹を貫きながら微笑していた。苦しげな微笑であった。
そう。
彼女は同じく微笑で返したものだった。




呼吸の仕方さえ忘れて