企画 | ナノ

秋房が刀を打った。
いつもと変わらず、それは名刀と呼ばれても差し支えのないもので、よく知らない男が買っていった。
その様子を私はゆらの小さな手を掴んで見ていた。さしてやることもなかったし、この結界の外に私は出れない。できればゆらは出してやりたいのだけど。
ともかく、男が秋房の刀を買った。初夏の涼しい日だった。


思わず、舌打ちが溢れた。ゆらがぎょっとしたのが分かり、慌てて笑みを繕った。




「あんたの、」

縁側から見える月が綺麗だった。
欠けてはいたけれど。
でも、横にいる秋房の髪の方がきらきらとしていて綺麗だ。当たり前かもしれない。綺麗な月の光を浴びているんだ。もとより綺麗なものが、だ。

「秋房の刀が、あんな男に売られるなんて…気に入らないな」

「名前…」

「秋房の刀は、あいつにはきっと手に余るよ」


私は刀のことはよく分からない。誰の銘の刀が有名で、何の刀がすごいのか。さっぱり分からない。それでも、秋房の刀はわりと分かっている。それは自惚れではなく、秋房がいろいろと話してくれたからであって、だから自惚れじゃない。

「…仕方ない。花開院のためだ」

秋房が何も言わないものだから、縁側から降りて庭の小石を踏みつけていると、秋房が苦笑交じりに笑った。ようだった。秋房を振り返るように見れば、やはり苦笑いしていた。

「秋房、でも私は秋房の刀が好きだよ。だから、あんなやつらに扱われるのが気に入らない」

「えーと…ありがと、う」

「構わないよ。なぁ、秋房」

やや照れたような秋房の側に歩み寄って、彼を見下ろす。
そのまま手を伸ばせば自然と彼の手に触れるから、とん、と軽く指で押す。
綺麗な、手だな。改めてだけれど。



「苛々するんだ、秋房の刀が酷いように扱われるのは。あんたの刀を使えるのは私達だけでいいのに」

小さく笑い、その手を持ち上げ唇を落とした。



花開院のためならば。
家族のためならば。
いくらだって、戦える刃になりえた。




孕み下した残骸



昔はややヤンデレでした