企画 | ナノ

幸せに、と言えば先生は蒼い目を細めて笑った。どこか照れたような笑い方は先生らしくなかったけれど、笑っているのはやっぱり先生なのだ。


先生が結婚した。
私も相手を紹介されたけれど、とても綺麗な人だった。紅い髪は太陽の下だとまるで夕焼けみたいに赤々として鮮やかで。
先生が言ったのかは分からないけど、月の下で目立つ銀髪の私と似ているねと笑ってくれたときには顔が赤くなった。
つまり、それくらい美人な人だった。


「先生には、お似合いの人ですね、クシナさん」

「そうかな?」

「はい。とても。うらやましいくらいです」

「はは、名前は女の子でしょ?」

「男の子だったら、先生にクシナさんは渡しません」

我ながら、変な言葉だった。でも、嘘ではない。
きっと、好きくらいにはなれたんじゃないかと思う。負けず嫌いな性格なんかじゃない。オビトはそうだったかもしれないけど、私はそんなんじゃない。
だからこそ、眩しい人に惹かれる。

先生が結婚したことは嬉しかった。心底から幸せに、と言えたから。

でも、どこか心の奥底で寂しさが揺らめく。置いていかれるわけじゃない。分かってる。少しだけ、遠くなるだけだ。
もとから、距離だって近くはない。先生は火影に選ばれるような人で。私には遠い人で。周りはとやかく言うけれど、それは私のなかじゃ変わらない。
すごく嬉しくて少し寂しくて。ほんの少しうらやましい。
それを誤魔化したくて思いきり笑う。



「きっと私の方がクシナさんのこと幸せにしますよ」

「名前が言うと冗談に聞こえないなぁ」

「当たり前じゃないですか。先生には忍術でしか負けたげません」

「…名前が男の子じゃなくて、良かったよ」


苦笑いして降参だというように手を上げた先生は全然頼りなくて、いつもの頼もしい様子は微塵もない。
それを指摘してから「そんなんじゃ、クシナさんに逃げられますよ」と付け足せばいかにもどうしようといった顔をするものだからおかしくて。でも、きっとクシナさんは先生から逃げたりしない。見たら分かるんだ。


本当に幸せなんだって


きっと先生やクシナさんが幸せなら私も笑える。
私は忍になって先生やクシナさんが幸せになれるようにちっぽけな努力をすればいい。それが恩返しくらいにはなるんだろうって、それが正しいんだって言い聞かせたら、悲しくなった。
でも、涙はでない。嬉し涙も、悲しい涙も、涙腺は黙ったまんまで。


幸せなのになぁと空笑い。



両手で顔を覆って隠した