戦場にはどこか似合わないやつになった。 あの頃は、どこかの男より戦場が似合うと思っていたのに。
春知らず冬を待って
もともと女らしくないやつだった。 いつも口うるさく怒鳴ることもあったし、幼い頃から勤勉だったから弁もたつものだからことわざだとか難しい言葉を使って説教だってしてきた。松陽は そんなことはなく、とてもおおらかだったから、対照的に見えたものだった。 いつか。こいつが刀を握ることがあったなら。きっとアホみたいに似合うもんだと思ってた。
「…まったく、何度怪我をこさえれば済むんだ。お前は」
「……うるせえ」
まったくもって、正論。 それになにも返す言葉が浮かばずそれだけを返せば深い呆れたような溜め息を吐かれた。 それでも手際よく包帯を巻いていく手は綺麗だった。この手だって、人を斬る。迷いなく、だ。
「怪我をするなとは言わない。けど、もう少し気を付けることはできないか?晋助」
「ここは、戦場だ。そうも言ってられないだろ」
「……そうだな、」
ふ、と名前は微苦笑を浮かべる。
お前や私、銀時も、辰馬も、覚悟を決めてここに来た。国のためじゃない。先生のためだ。どんな辛いことだって怪我だって、覚悟していたつもりだった。
長い科白のあと、でも、と続けた名前の声が震えた。漆黒に近い目が何かにたえるように細められる。
掴まれていた片手に、名前のもう一方の手が添えられる。やんわりと込められた力。
「やはり、辛いものだな」
──誰かが傷つくことは。
笑う名前はあまりにも似合わない。この天人とも人間ともつかない死体が転がる戦場には。
「──お前は、向いてねぇよ。ここには」
そっとその背中に手を這わしてやれば、小柄な自分よりさらに小柄な体がすり寄ってくる。さらに頭を押さえて首元に押し付けてやれば困ったような笑いが耳をくすぐった。
「晋助は不思議だな。小さくて怖い顔してくるくせに、優しいんだ」
|