いつもながら、高いなぁと髪を揺らしてくる風に目を細めた。けれど、ちらりと落とした視線の先にあったものを見て、うわぁと顔を盛大に歪めたくなった。 不満です、と顔に隠さず出してこっちを見てくる金兄。思わず柔兄の頭にしがみつく。
譲ってやるものか。 だって、いつもいつも金兄ばっかり、ずるいじゃないか。 お兄ちゃんなのに、さ。 今くらい譲ってくれたっていいじゃない。いくら柔兄が好きだとしても、私だって金兄と同じくらい柔兄が好きなんだから。 こっそり、アッカンベーをしてやった。とたんに、志摩家の血筋らしく金兄がキレた。まったく短気だ。
「っ名前!もう変われや!」
「まだ全然じゃん。ずるいよ金兄ばっかり!」
「喧嘩すなよ。金造、名前」
「もう10分は経ったわ!」
「10分…全然じゃん。いいじゃん…いいじゃんいいじゃんっ。金兄は私の“お兄ちゃん”でしょ」
我ながら、子どもっぽくて意地の悪い言葉だと思う。お兄ちゃんって、兄にとったら言い訳のできない言葉だから。 でも、金兄はわりと、この言葉が好きだ。 だって頬はひきつりながらも緩んでいるし、あからさまに喜んでますって顔だから。
だから、私もこの言葉が好きだ。
金兄はほにゃほにゃと笑うし、いつも笑顔な柔兄がちょっと寂しそうな顔をするし。いつも見れない顔が見えるから。
「しっかたないわぁ!優しい優しい金造様が譲ったるわ」
「はいはい。お兄ちゃん。ありがとね」
「なぁ名前、兄ちゃんのことも“お兄ちゃん”って呼んでや」
「っ、今は俺が兄ちゃんなんやぁ」
「ええやんか」
下で始まった口喧嘩が耳に心地よかった。 ああ、笑みが止まらない。たまらず笑い出したら二人の口喧嘩が止まった気がした。
愛だけが地球を救うの?
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