企画 | ナノ

「ピンとか、お前は女子か」

「んやとごらぁ!」

金兄が頭を染めた。
理由はたしかに堂々と言われたはずだったんだけれど、かなりしょうもなかったのと、染めたと報告した瞬間父さんの怒号と金兄の悲鳴が響きわたったからよく覚えてない。
いや、今はそんなことどうでもいいんだけど。


「なんでピン?髪切ればいいじゃん」

「分かっとらんなぁお前。ピンで止めてこそお洒落ってやつやろ」

「わぉ、金兄の口からそんな言葉が聞けるなんて。時代遅れにもほどがあるでしょ。染めたらいいってもんじゃないし。髪バキバキ」

「うっさい!キューティクルはあとで戻るわ」

「いや、そういう問題?」

もうよく分かんない。
私はお洒落というお洒落をしたことがないし、ファッション雑誌なんてものも買えないくらい貧乏なものだからもともとよく分かんないんだけれど。
そこらへん、金兄の方がよく知ってるだろうから、強くも言えないし。

でも、染めない方がよかったなぁというのはどうしても捨てきれない。私は黒髪派なのだ。ついでに坊や子猫丸が真似をしたらどうしてくれる。
子猫丸は毛ないけど。剃髪したからね。

なにより、勿体ない。
金髪の金兄も格好よくないわけじゃないんだけど、ずっとずっと見慣れていた黒髪の方がお揃い、なんて可愛い言葉ば言えやしないがお揃いで嬉しかった。
ちょっと癖毛なところとか。カムバック、金兄の黒髪。

金兄が金髪になったとき、こっそり元に戻そう計画を立てていたのは今は馬鹿みたいな話で。そもそも金兄が私の言葉を聞くわけがなかった。
柔兄とお揃いじゃないか、と言ってやったら戻そうか悩んでたのは惜しかったけど。結局「個性やから」という理由で今のまんまだけど。
なんちゅうしょうもない個性か。



「ねぇ、黒髪に戻す気ないの?」

「ないに決まっとるやんか」

「……戻した方が格好いいのに」

「……戻さへんぞ」

「今の間はなによ」

「金造様いうたら戻してやってもええで」

「死んでもいうか」

何様だ貴様。




君と君でない物の違い