祓 | ナノ
37.その男、哀れむ


悪魔の居場所が分かった

そう報告が入ったのは、真夜中のことだった。だが、祓魔師に真夜中も真昼も関係などなく。
龍夜は眠そうに目をこする燐達を引き連れて現場に走った。
場所はーー洛北、金剛深山。


***

「状況はどうなってんだ」

「坂本さん」

深山に着いてみれば、辺りは騒がしく人が動き回っている。怪我人もいることからして、悪魔は抵抗しているのだろう。
先ほどから経や怒号が飛び交っている。それは燐達に数年前のあの時を彷彿とさせた。その時のことは龍夜も聞いてはいるが、ヴァチカンにいたため詳細は知らない。それに、今は今のことに集中するべきだろう。

「今、交戦中ですが、ただ…」

「憑いてるのが生きてる人間、なんだろ?」

「…はい。銃火器も刀も使えへんのです」

生きてる人間に危害を与えてはいけない。人間を救うためにいる祓魔師だ。だが、悪魔はその生きた人間…しかも少女に憑いている。致死節も分かっていないため、防戦一方だというのだ。薄々、予想はしていた事態だったが、いざとなると面倒だ。
龍夜は小さく舌打ちをする。

「胸くそ悪ィな」

「龍夜!どうすんだ!?」

「…ひとまず、杜山と神木は怪我人の治療を手伝え。奥村は俺と付いてこい」

簡単な指示を出せば、しえみと出雲は、はい、と頷いて他の祓魔師に付いていく。燐もこくり、と頷いた。龍夜はそれに確認すると、太ももからナイフを抜いた。そしておもむろにそれで自分の腕を軽く切った。その行為に燐はぎょっとする。

「何してんだよ!」

「…黙ってろ。こいつはただの刀じゃねぇ」

「魔剣、か?」

「ああ。見てな」

龍夜は燐に頷いて見せると、血で濡れたナイフに、ニヤリと笑いかけるとそれを水平に構えた。

「仕事だ=v

「!」

その瞬間、ナイフがまるで柄の長い斧のように変形した。龍夜は驚くことなくそれを握ると、すっ、と目を細めた。

暴。それが剣の名前だった。どこかの悪魔が封じられている魔剣。過去の自分はそれを知らずに振るっていたのだけど。

そして、くるりと燐を振り返り、くいと顎を動かすだけのジェスチャーで先を促した。

「行くぞ。覚悟しておけ」

「…おう!」

真剣な表情で頷いた燐に、龍夜は小さく笑みを浮かべた。

燐の表情には、倒すというよりは助けたい、というような覚悟が浮かんでいるように見えて。
甘い、と思うのに。
どこか彼が羨ましく思えた。






please feel pity
(憐れんでください)


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