2.その男、猟犬 「よくもあんな仕事押し付けてくれたなオイ」 龍夜は豪華な椅子に寄りかかり目の前の男─メフィストを睨む。そんな龍夜にメフィストは心外だと言うように手を振り、そして、その手を目の前で組んだ。 いちいち煩わしいやつ、と龍夜は内心舌打ちをするが、仮にも上司。憎々しく睨むだけに留めた。龍夜はメフィストが苦手だ。腹の内が読めない。 メフィストはそんな彼に薄く笑い、口を開いた。 「そんなに苛立たないでください。で、昨日の任務はご苦労様でした。何でもほぼ貴方だけで悪魔を殲滅したそうじゃないですか。さすが、聖騎士の忠実なる猟犬≠セ」 「…そんなこと言いに俺を呼び出したんじゃないだろ?だいたい、聖騎士のことは出すんじゃねーよ。嫌味か」 「まさか」 さっさと言え。そう言わんばかりに龍夜は頬杖をついて溜め息を吐いた。メフィストが気付いていましたかと言ったのを片目で見据えた。 龍夜はめんどくさいことは好まない。思えば何故俺はここにいるのか。生まれ育った国とはいえ、龍夜は祓魔師になってからはヴァチカンにいたはずだった。それを人手不足だからと呼び出されたのはいつのことだったか。…断わったはずなんだけども。 元上司、否、今も上司であり聖騎士のエンジェルもあまり好まなかったが、このメフィストも気に食わない。祓魔師なのに悪魔とはどういうつもりだ、と。とはいえ、龍夜と気が合ったのは故人である藤本とお馴染みの彼女くらいなのだが。 そんな思考に浸っていた龍夜をメフィストの言葉が呼び戻す。 「龍夜さん、貴方には明日からチームを組んでもらいます」 とたんに龍夜は固まり、疑るようにメフィストを見た。そしてあり得ないと言うように笑った。 「メフィスト、冗談はよせよ。第一、なんでチームなんか組まなきゃいけねぇんだよ」 「いえ、貴方には教育をしていただきたいんですよ。祓魔師としてね」 「…マジか。俺、教えたことなんかねえぞ?」 「構いません。狗のように使いなさい。性格は貴方と合うと思いますが」 「俺を変態みたいに言うな。んな趣味はねえ。…つっても俺に拒否権ねぇんだろメフィストさんよ?」 諦めたように言う龍夜にメフィストは、よくお分かりでと頷く。 元ヴァチカン勤務と言っても龍夜も数年日本の支部で働いてきた。そうでなくともエンジェルからメフィストについてはうんざりするほど注意されてきた。彼の人間性(悪魔だが)は十分知っている。 龍夜は仕方ねぇと頷くと、立ち上がった。要件は済んだと見たのだ。 メフィストに背を向け、部屋を出ようとした彼の背中にメフィストは見えないだろう笑みを向けて言った。 「あ、任務は明日からですが、その相棒(パートナー)には今日会ってもらいますから。場所や時間は後程連絡します」 …本当にろくでもない。 龍夜はメフィストに一睨みを向けたあと、口元に三日月を描いた。やや、それはひきつっているが。 「了解」 そう言い残し、龍夜は部屋を出た。 バタン、と扉を閉めた龍夜は、 「ホンッと、ムカつく野郎」 盛大な舌打ちをして歩き去った。 アンチキリストの嘲笑 (いつか喉笛噛み千切ってやるよ) prev:top:next |