祓 | ナノ
36.その男、鎮魂


とある悪魔がいた。名前は様々だったが、おもに"とうりゃんせ"と呼ばれていた。

理由はその悪魔が現れるとき、"とうりゃんせ"という唄が聞こえるから。その悪魔はなぜか日本の、京都にしか出ず、子供を拐った。

ただの子供じゃない。心に傷のある孤独な子供を。そいつはその子供に優しく語りかけて取り込む。
そしてその子供に憑いて意思を奪う。いつしかその子供はその悪魔になってしまい、また子供を拐う。

そうして力をつけていく。その子供の体にガタがきたらまた別の子供を。そうして生きながらえていく。いつしかその悪魔は神隠しをする悪魔として祓魔師に祓われた、らしいが。意地が悪いのか運が良いのか。

また甦った。動きを潜め、着々と力をつけて。


「そしてまた、この地で活動し始めたらしい。」

あくまでも冷静に語る龍夜は目を細めて三人を見た。
分かったか?と尋ねてくる龍夜に出雲は問いかける。

「目的は?その悪魔の目的はなんなんですか?」

「分からない。だが、早く祓わねぇといけないことに変わりはねぇんだ」

そう言って龍夜は首を振った。
早く、早くしないと。
あの少女が悪魔に飲まれて死んでしまうから。死んだ人はもう戻らない。

「なぁ、龍夜。もしかして、その悪魔に今誰か憑かれてるのか?」

的を得た問い。
恐る恐る尋ねてきた燐の目は、揺れていて複雑な思考が入り交じっているようだ。燐の言葉に龍夜は静かに頷いた。その瞬間、三人の目に驚愕したような色が宿った。

龍夜の言葉には、その悪魔に憑かれれば遠かれ近かれ死が待っているということを意味していた。憑かれている者がいるなら、早く助けたいという気持ちに至ったのだろう。

燐は立ち上がると龍夜に詰め寄る。その表情には焦燥が浮かぶ。

「っなら早くしねぇと!その子が死んじまうじゃねーかよ!?」

「落ち着け奥村。気持ちは分かるが、焦っても何にもならない」

「でも!俺はっ、俺は…」

「……奥村」

その子を助けたい。
そう言って項垂れた燐。龍夜だって気持ちは同じだ。同じ孤独を知っているあの少女を、祓魔師として助けたいという気持ちは。だから、焦るし、何もできずに足掻く自分がもどかしくて情けなくて、どうしようもなく悔しい。
祓魔師なら、誰だって救いたいものがある。

龍夜は小さく笑うと燐の頭を撫でた。

「分かってるさ。そのために今、悪魔の居どころを探してる。だからな、お前だけで先走るな。お前らもだ。一人で戦ってきた俺が言うのもなんだが、祓魔師は一人では戦えない。……そう習わなかったか?」

「っはい!」

龍夜の言葉に三人は目を見開いたあと、力強く頷いた。


一人では戦えないから。
手を伸ばして取り合って。そうして僕らは生きていくんだ。






空想的ユートピア
(世界のすべて、俺のすべて)


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