祓 | ナノ
35.その男、話す


菜月という少女の夢を見た翌々日、燐、出雲、しえみを集めると龍夜は彼らに静かに告げた。

「…ー分かった」

唐突に言った龍夜に、辺りは一瞬静まり返った。分かった?何がだろう。そんな疑問が誰となく浮かんだ。龍夜のその手には出張所の記録が示されているファイルが握られている。それは先ほど開放された書物庫で見つけたものだ。

龍夜の言葉に、その場にいた全員の気持ちを代弁するように燐が尋ねる。

「分かったって、何がだ?」

「…犯人」

「犯人!?」

燐の言葉に龍夜が短く答えれば、辺りが打って変わって騒がしくなる。当然のことだろう。今まで何もかもが分からず、解決の糸口が見えなかった今回の事件の犯人が分かったと、龍夜は言ったのだ。
そのなかの、出雲がなんとか落ち着きながら龍夜に問い掛ける。

「その、犯人って、なんなんですか?」

「悪魔。このファイルにあった」

至極当然のように答えた龍夜はファイルを漁り、目的のページを開く。そしてそれを皆の真ん中にある机に置いた。
それに皆の視線が集まったのを確認して龍夜は口を開く。

「それはまだ江戸時代の記録だ。」

「え、江戸時代、ですか?」

そんなに昔のことなのかと目を丸くしたしえみに龍夜は無言で頷く。

別に珍しくはない。昔から悪魔はいたのだから。人がいる限り悪魔は干渉してくる。だからこそ、祓魔師のように祓う者がいるのだ。必要と、されたから。悪魔と人の戦いはもう長いのもそのせいだ。

とにかく、と龍夜は遮られた言葉を続ける。

「江戸中期…その時代この京都では子供が行方不明になる事件が多発していたらしい。だが、犯人は姿なく、そのせいで捕まることもなかった。その事件はやがて神隠しと言われるようになり、京都では一時期、日が暮れてからの出歩きを一切禁じた」

「神隠し…、」

神隠し。
主に子供などが唐突に姿を消し、行方不明になってしまう。犯人が分からない故に人はそれを神や妖怪ー今で言えば、悪魔の仕業としたのだ。今では滅多にないため、伝説や怪談となりつつあるが。

ーとにかく、京都でも昔は神隠しがあった。恐らく、このファイルの伝承を見る限り悪魔の仕業だろう。


「でも、それとこれと、何の関係があるんですか?」

神隠しというものがあることは分かった。それでも、この京都で今は神隠しなど起こっていない。起これば事件にもなるだろう。
そんな意図を含んだ出雲の言葉に龍夜は僅かに表情を歪めた。一瞬頭を掠めたのはあの少女。
だが、龍夜はすぐそれを振り払い、口を開く。今は感傷に浸っている時ではない。

「…そのことなんだが。ひとまず、ある悪魔と人間の話をしておく」

「ある悪魔と、人間?」

不思議そうに首を傾げた三人に龍夜は小さく頷くと、横に積まれていた本から一冊を取る。

そして目を細めて夢の記憶を手繰りながら、その悪魔て人間について話し始めた。





散りゆく白を染めるのは
(もうすぐだから、)


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