祓 | ナノ
33.その男と少女


 助けて、龍夜

誰かがそう呼んだ気がして、龍夜は目を開けた。けれど、そこに広がったのは果てしないような闇で。思わず目を見開く。明らかに現実ではないようなそれ。なんで?龍夜の口からは純粋な疑問が零れた。夢だろうかと、瞬きをする。先ほどまで龍夜は用意された部屋にいたのだ。そう思わない方がおかしい。

不意に、嗚咽するような声が聞こえた。誰かいるのかと辺りを見渡すが、そこには何もなく。けれど啜り泣くようなか細い声は確かに聞こえるのだ。龍夜はスゥと目を閉じ、精神を集中させる。何もないはずの闇のなか。それはいた。

「…人?」

そう呟いて、歩き出す。真っ暗なせいで進んでいないような錯覚を覚える。けれど、それを見て確かに進んでいたんだと理解した。それ──一人の少女を見つけて。龍夜はその少女を見つけた瞬間、思わず身構えた。その少女は紛れもなく、あの霊を従えていた少女だった。なんでここにいる?そう問う前に少女が龍夜を見た。

「──龍夜、お兄ちゃん?」

「ッ…」

少女は泣いていた。その整った顔にある丸い目から大粒の涙を溢しながら。同じ少女であるはずなのに、あの歪んだ笑みとかけ離れた泣き顔はとても同じ少女には見えなかった。あの妙な違和感もない。その少女は、ただの人間のようだった。実際、そうなのではないかと思う。

少女は龍夜を見て、僅かに表情を緩めた。

「…なんで、ここにいるの?」

「それはこっちの台詞だ。つうかここはどこだ?それにお前は…」

「…私は、」

分からない。
そう呟いて少女は俯く。その姿は昔、ただひとりぼっちでいた龍夜と重なって。龍夜は思わず息を呑んだ。
少女は孤独。縋るものも何もなく、手を差し伸べてくれるものもなく。ただひとりぼっちでいるしかない。同じ境遇にいたことがある龍夜だからこそ、それは見ただけで理解できた。心臓がばくばくと鳴る。過去の自分を見ているようで心臓が締め付けられる。

(落ち着けッ…こいつは、悪魔だ、ろうが)

そう言い聞かせても、今の彼女はとてもそうは見えない。

人にしか、見えなかった。気付けば、手を伸ばしていた。少女は龍夜の手を呆然と見つめたあと、弾かれたように龍夜にしがみついた。龍夜は静かにそれを受け止める。少女は暖かかった。生きている人の暖かみ。
こいつは、悪魔じゃないのか?そんな疑問が頭を過る。

龍夜は自身を落ち着かせるように息を吐き出すと、嗚咽する少女の頭に手を乗せ、彼女に聞いた。

「…お前は、何だ?」

「…私、は、…」

「…人か?悪魔か?それとも、それ以外か?」

「ひ、とッ」

泣きじゃきりながらも龍夜にそう返す声ははっきりとしていた。それは嘘には聞こえない。情けじゃなく。

「…名前は?それと、話せるなら何があったか話してみろ。俺が聞いてやる」

「菜月…。」

そう呟いて、少女はポツリポツリと話し始めた。自分が一人であったこと。その時、誰かが囁きかけてきたこと。自分がそれに頷いてしまったこと。それから、自分の意志とは反対に人を傷付けるようになってしまい、罪悪感から押し潰されそうになり、泣いていたこと。

少女の話を聞きながら、龍夜は思う。

囁きかけてきた誰か。それはきっと悪魔。孤独だったゆえに彼女が頷いてしまったのだろう、と。

「…大丈夫だ」

ならば、自分のやれることは一つだろう。
龍夜の言葉にきょとんと自分を見つめてくる少女に龍夜は笑う。

藤本が自分にそうしたように、自分もこの少女を救ってやろうと。孤独を知っている龍夜だからこそ、この少女を救える。

「俺がお前を助けてやるから。だから、」

泣くな

その言葉に、

「っ、うん!」

少女は強く頷いて、泣き笑いを作って見せた。



雨に濡れた紙袋はぽろぽろと崩れ落ちて包み秘されていた想いをさらけだしてしまいました


祓魔師をナメるな。






泡に消えた涙
(深く、そして高く空へと)

類は友を呼ぶ

‐‐‐‐
オリキャラでばりすぎだ


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