祓 | ナノ
27.その男、紡ぐ


 あれから、なんの収穫もなかった。あの少女にも会えなかった。あの少女が何らかの形で関わっていると分かっているのに。なんてもどかしい。僅かに龍夜の表情に焦燥が滲む。焦るな、そう言い聞かせてそれを押さえる。
今が一人で良かった。龍夜は内心そう安堵する。なんというか、弱味を見せるのは嫌だ。見られたくない。これが怯えなのだと、龍夜は気づいている。だから、押さえようとする。弱味は見せたくない。ただその意地だけで。

その時、部屋の襖が躊躇いがちに開く。入ってきたのはしえみだ。龍夜は表情を隠し、しえみに向く。しえみの表情はどこか不安そうだ。どうしたのだろうか。龍夜は眉をひそめて、しえみに問う。

「どうかしたか?」

「いえ…燐と出雲ちゃん、まだ戻ってこないなぁって、…すみません…」

「…そういやそうだな」

かれこれ二時間は経つ。
だというのに燐と出雲は未だに戻ってきていない。嫌な、予感が胸を掠めた。龍夜の本能が告げているような気がした。黙りこんでしまった龍夜にしえみがわたわたと慌てる。それに龍夜はハッとしてしえみに大丈夫だろうと笑う。安心、させるつもりだったそれ。だが、

「坂本さ、ん。顔色悪いですよ?」

「っ…あぁ、気にすんな」

しえみにも動揺が伝わったようでしえみが不安そうに言う。それに龍夜は内心舌打ちする。だが、嫌な予感というのは大抵当たってしまうのだ。特に自分のものは。どうする?また外に出ようか?そう考えたとき、慌ただしい足音がこちらに近付いてくる。そして、

「龍夜!大変や!」

年甲斐もなく焦った様子の八百造が襖を開ける。

「お前の所の祓魔師が…ッ」 

その瞬間、しえみが走り出し、八百造の横をすり抜けて走っていった。龍夜は、予感が当たってしまったと眉を寄せ、八百造に尋ねる。

「状況は?」





「…っ」

状況は最悪ではなかったが、悪いことに変わりはなかった。燐と出雲が倒れているのを明陀の僧が見つけたらしい。二人とも原因不明の魔瘴を受けていて高熱に魘されていた。早く治療しなければならないが原因が分からない以上、手の施しようがない。
燐はまだ耐性があるにしろ、出雲はまずい。

「燐、出雲ちゃん…、」

「……あかん…」

そう不安げに呟くしえみ達を横に龍夜は己を恨む。判断が甘かった。
ならば然るべき責任をとるのは。

慌てる門徒や僧達に龍夜の声がかかる。「退いてろ」と。その声は従わないことを許さず、皆、引いた。龍夜は布団に寝かされている二人に近寄り、膝を崩した。そして目を瞑り、手を翳す。
しえみ、八百造や勝呂達が見守るなか、龍夜は静かに詠唱を唱え始めた。

「我が名の元に命ず…=v

ジジィなら、こんな状況のときどうしたのだろう。

そう考えて、自嘲する。
何を馬鹿馬鹿しい。


今は自分自身でなんとかしなくてはいけない。そう、意識を集中させた。


「さしたること、成すべからんと…=v






隠した痛み
(気付かないふりをした)


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