20.その男、家族 その頃。 龍夜の予想通り、燐達は勝呂達と今の近況などを話し合っていた。誰の顔にも再会できた嬉しさが浮かぶ。あの頃は大変だったけれど。今は違うのだ。 龍夜には、ああ言われていたが、こればかりはどうしようもなかった。 しばらく何気ない会話を交わしていると、不意に志摩が呟く。 「そういえば、龍夜さんはどこ行ったんやろな。」 そんな言葉を。 「ああ…、そういえばいませんね」 「そうやな…」 「どこいったんですやろ。さっき会いましたけど」 その言葉に勝呂と子猫丸も同意するように頷く。それを聞いた燐としえみ、出雲は不思議そうに首を傾げる。なぜ、三人が龍夜のことを知っているのだろう、と。理由を説明してくれる龍夜はいない。燐は三人を見て尋ねる。 「お前らって龍夜のこと知ってんのか?」 「知ってるも何も、龍夜さんはここで一時期修業してはったんです」 「俺からしたら、奥村くんらが龍夜さんと一緒やったことが驚きなんですけどね」 「そうやで。」 口々に言う三人に、燐達は目を丸くする。 まったく知らなかった。 「そうだったんだ…ね、坂本さんってどんな人なの?」 しえみの言葉に勝呂達はしばらく考え込む。坂本龍夜という人物について。口を開いたのは、勝呂だった。 「あいつは──…」 あまりよくは覚えていない。それでも龍夜のすごさや性格ははっきりと覚えている。龍夜は達磨の友人から預けられたと達磨が言っていた。勝呂よりは年上の少年で、修業をしに来たのだと説明された。 龍夜は詠唱はできなかったが、銃火器の扱いや刀の扱い、終いには使い魔も召喚してみせてくれた。 明陀にはいない才。 それだけで皆の目を引いたが、龍夜は自慢するでもなく詠唱を学んでいた。勝呂はそんな龍夜の性格が好きだった。そういえば、竜騎士になろうと思ったのもあれが始まりだったのかもしれない。 そんなにすごいなら、詠唱なんて学ぶ必要はないのではないか。幼かった勝呂がそう尋ねれば、龍夜はしばらく考えて、首を横に振った。 「俺は強くなってジジィを驚かせる。いつまでもガキじゃないんだって。ま、納得はいかねぇけど。でも詠唱って綺麗だろ。だから嫌いじゃないからいい」 言の葉に乗せ言を奏でる たったそれだけで悪魔を倒す それが詠唱 綺麗だろ? そう笑って龍夜は言った。それに幼かった勝呂は驚かされて、そのあと嬉しさから、それを達磨に告げた。達磨はしばらくそれを聞いていたが、彼もまた嬉しそうだった気がする。 龍夜といた期間は短かったが、いつの間にか龍夜は明陀の皆に好かれていた。家族、だった。 だから彼が帰る時涙ぐんでいた門徒達もいた。勝呂や子猫もまた、涙ぐんでいた。今となっては懐かしい思い出だ。 久しぶりに会った龍夜は変わった 大人びた。強くなった。 それでも変わらないところも会った。皆、喜んでいた。龍夜が帰ってきた、と。本当は帰ってきたわけじゃない。分かっている。任務だ。それでも帰ってきたように感じたのは、まだ家族だから。 「─…龍夜は明陀の仲間や」 「…そうですね。なんか兄貴みたいでしたわ」 大切な、友人 その言葉に、燐もまた「そうだな」と頷いた。 なぁ龍夜 お前は一人じゃないんだな 幸せの定義 (僕の大切な人が幸せでありますように) ------- 夢主は愛を知ってるけど知らない prev:top:next |