13.その男、不器用 人の過去は探るものではないと、メフィストは笑った。 気になったのは、龍夜の呟き。しっかりと聞き取れたわけじゃない。ただ、、龍夜の表情が愁いを帯びていたようで。気になった。 龍夜と燐がチームを組んで、数日経った。いろいろと龍夜についても分かってきた。龍夜の実力だとか、性格だとか、隠れた優しさだとか。雪男とそこそこ交流があったこと(シュラの知り合いなのだから知っていてもおかしくはないのだが)も分かった。 任務にも馴れてきたと思うのだ。まだ助けられることはあっても、それがチームというものだと龍夜に教わった。それでも、分からないことがある。 龍夜の過去。 それは一切知らない。龍夜本人に聞くのはさすがに気が引ける。ただ、龍夜が時折見せる顔がどことなく影があって、彼にもいろいろあるのだと理解した。龍夜は燐が青焔魔の息子と分かっていても全く恐れない。燐自身、それに救われてきた。それが龍夜の性格なのだと弟の雪男にも言われた。確かにそうだと思う。 けど、俺は。何も龍夜の過去は知らない。知っているのは藤本と師弟だったということだけだ。 何となく気になって、雪男に聞いたが知らないと言われた。つまり雪男にも話していないのだろう。 だから、メフィストの元を訪れた。彼なら知っていると思ったから。だが、メフィストは意味深に笑って返した。 「人の過去はそう探るものではないですよ。特に彼のような人間はね」 「…っでも、あいつは俺の過去を知ってんだろ?」 「まあ藤本(かれ)の弟子ですから、愚痴ぐらい聞いているでしょうね。それでも、龍夜さんは貴方を受け入れてくれたじゃありませんか」 「…なら、俺も、」 「知る権利がある、とでも?」 メフィストの声音が変わる。彼らしい緩やかな声音から、氷を思わせるような声音になった。思わずメフィストを見据える燐に彼は声音を緩やかなものに戻して続ける。 「確かに全てでないにしろ龍夜さんは貴方のことを知っているでしょう。ですが、龍夜さんの過去と貴方の過去が同等だとなぜ思うのです。知る権利があると思うのです?」 「それは…」 「貴方の過去と龍夜さんの過去は同じではない。私も全てを知っているわけではありませんが、これだけは言っておきます。貴方の過去もそれなりに重いかもしれません。ですが龍夜さんの過去はそれ以上です」 藤本が龍夜に手を差しのべなければ、龍夜はいなかった。それこそが龍夜が藤本に執着する理由であり原点。 貴方にそれを知る権利はありませんよ。そう笑うメフィストに燐は何も言わなかった。言えなかった。 メフィストが言わんとすることが嫌でも分かった。 けど、龍夜を支えたいのもたしかだ。支えられているだけではいけないと。何より仲間として。燐は拳を握る。 そんな彼にメフィストは目を細めて告げた。 「相棒だからこそ、知ってはいけないこともあるものです。彼を支えたいのなら、龍夜さんが貴方を受け入れたように、貴方も全てを受け入れることですよ」 「俺に、できると思ってんのかよ。」 俺はそこまで器用じゃない。そう苦々しく言う燐に、メフィストは、 「器用な人間などいませんよ」 貴方も、彼もね。 だから支え支えられてきたのでしょう?今も、昔も、これからも。それで十分ではありませんか。 そう、にこやかに告げられ、ようやく燐は表情を緩めた。 「そ、うだな」 縛られているのはどちらなのだろう。 ガラクタな世界 (あんたと背中合わせ) prev:top:next |