祓 | ナノ
10.その男、弟


 龍夜はトレーニングルームにいた。横にはシュラがいる。

シュラは機嫌が良さそうだが龍夜は正反対に劣悪そうだ。事実、龍夜はかなり機嫌が悪い。それはそうだ。

いきなり来訪したシュラに無理矢理学園内のトレーニングルームに理由も聞かされずに連れてこられ、やっと理由を言うと思えば付き合え、だ。機嫌が悪くならないわけないのだ。そもそも理由になっていないのだが、シュラにそんな言い訳が通じないと龍夜は元より承知している。彼女の横暴さも身に染みている。龍夜も人のことを言えた義理ではないが。

龍夜はシュラに連れていかれるままバッティングセンターに似た設備のところに入る。この設備を龍夜はよく覚えている。昔よく藤本に連れられシュラと競わされたものだ。正直、気分は乗らないがやらなければシュラも満足しないだろう。

「達人でいいか?」

「…ああ」

拒否権もないようだ。
龍夜は何度目かの溜め息を吐くとシュラを見やり、尋ねた。

「銃と刀、どっちだ」

「お前の好きな方で良い。負けたらもんじゃおごりな」

「…分かってる」

龍夜は頷くと太股に添い付けてあった銃火器を抜き構えた。シュラはその様子に笑みを深めた。




「…お前、反則だろ…」

数分後、珍しく呆然とした様子のシュラに龍夜はニヤリと笑みを返す。してやったり、というような笑みだ。

「反則なんてねぇだろ」

そう言って銃火器を戻す。横ではシュラが狡いぞと叫んでいるが知ったことではない。勝ちは勝ち。龍夜が勝ったことに変わりはない。そんな龍夜の目の前の機械には何発かの弾丸が食い込んでいて煙を上げている。シュラは龍夜を悔しそうに見て叫んだ。

「機械ごと撃ち抜くとかなしだろ!龍夜!」

「知るかよ。んなルール聞かされてねぇ」

「壊しといてそれかよ!」

勝敗は実にあっさり着いた。龍夜が機械に弾丸を撃ち込んだのだ。当たり前に機械は故障した。
シュラも性格上質が悪いが、龍夜は尚更質が悪い。それこそ、勝負を終わらせるために機械に弾丸を撃ち込むほどに。
シュラは龍夜の言葉に呆れたような溜め息を吐いた。

「お前なー…」

なんてやつだ。
後輩である眼鏡の青年も銃火器を使うがここまではしない。とはいえ、性格が正反対に違う彼と龍夜を比べてもさいのないことだが。

同時にいつの間にか、越えられていた。とシュラは思う。
昔はこの勝負にシュラは毎回勝っていた。龍夜はよく負けては悔しげにシュラを睨んでいたものだ。なのに今はどうだ?シュラが負け、龍夜が勝った。あの頃とは確かに違う。

龍夜ははっきり言ってシュラより強くなってしまった。

シュラはそれが面白くない半面、なんだか物悲しく思う。

人は変わるとはよく言ったものだが、こうも変わってしまうと、なんだか複雑な境地になる。悔しい、のだが、それより寂しい。なんだか龍夜との距離が開いていくようで。馬鹿馬鹿しい、とシュラは首を振るがその思考は消えてはくれなかった。

珍しく様子の違うシュラに龍夜は首を傾げる。

「どうかしたか?シュラ」

「なんでもねえよ」

「んなわけねぇくせに。顔に出てんだよ」

そう言って、行くぞと促される。どこに、という顔をしたシュラに龍夜はまた呆れたように溜め息を吐いて、言う。

「奢ってやるっつってんだよ。いつも騒がしいやつがそんなんだと気が狂うからな」

「うるせぇよ!私より年下のくせに」

「関係ねぇだろ、アホ」

龍夜は叫んだシュラにからかうように笑う。昔なら、反対だったのに。
いつの間にか、精神まで、抜かされてしまったのか。

シュラは仕方なさそうに笑い、歩き出した龍夜の背中を追いけた。

今なら、弟に抜かされた燐の気持ちが分かる気がした。






子供だましの言い訳
(もうお前はガキじゃないんだな)


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