58.その男と関係性 例えば、このせかいで誰かが笑ったら。かわりに誰かが泣くのです。誰かが怒れば、誰かが悲しむのです。これを関係といいます。関係するからこそ、何かがあると何かが変わるように。だから、あなたが泣いたらわたしは悲しい。あなたが笑ったらわたしは嬉しいよ。 そんな言葉を思い出した。達磨の言った言葉は、そんなどこぞの哲学書にそっくりだった。いや、哲学書が達磨の言葉にそっくりだったのか。哲学書は人の心理を書いたようなものだから。そのとおり、なんだろう。だって、泣いてるお前を見たらなんだか辛い俺がいるんだ。 「…シュラ?」 墓参りから帰り、部屋に戻ろうとした龍夜の背中に何かがしがみついた。 ふわりとあまりよろしくない匂いに龍夜は眉をひそめた。酒臭ぇ、こいつ。かなり飲んだなと憶測し首だけ後ろを振り返り、嘆息した。憶測となにも違わないそれに、だ。 だが、シュラがこうなること、彼女にそうされることは初めてじゃない。精神的に強いやつはたまに弱くなる。雪男も精神は強いといわれているが、あれは虚勢に近い。本当は誰よりも臆病で、でも何かのために強くなったやつ。考えるに兄のため。燐は強いだろう。強いから弱さを知らず弱さに気づかないタイプだ。それを変えたのは藤本とシュラだろう。真の強いやつが強いやつをもっと強くした。 けど、強いやつだって、完璧じゃない。 龍夜はもう一度息を吐き、シュラと向かい合わせになろうとしたが、「向くな」とシュラに言われ、また溜め息を吐いた。 なら、どうしろと。 どうもしなければいい。何もできないならしなければいい。それもまた、優しさだと。ーーそう言えば、こいつの好みって冷徹だったな。 「なぁ、シュラ…」 「うるさい。何も言うな喋るな」 「あのなぁ…」 おいおい理不尽じゃねえか?シュラの言いぐさにこめかみがぴくりと反応したが、すぐに怒りにも似たそれは萎えた。こいつのこんな様子を見て何か言うのは無理だし、何よりもっと理不尽な目に遭うのはもっとごめんだ。 今日何度目かの溜め息を吐き出して、龍夜は思考を止めた。 考えるだけ、無駄。 リアリストの悲しそうな瞳 (泣かないでマドモアゼル) prev:top:next |