祓 | ナノ
3.その男、告げる


 龍夜はメフィストに呼び出された場所、といっても先ほどいた場所にいた。なぜここなんだ。龍夜はそんなことを考えながら呼び出した本人と自分の相棒となる祓魔師を待った。

「お待たせしました☆龍夜さん!」

「…メフィスト」

ちょうど秒針が二周ほどしたとき、扉が開く。そして聞きたくない声が聞こえ、龍夜は眉を寄せて視線を音源へと動かした。
そこには言わずもがな、メフィストと真新しい、と言うほどでもないがまだ小綺麗なコートを羽織った青年(というよりは少年に近いか)がいた。恐らく、彼が相棒になるであろう祓魔師。

龍夜はめんどくさそうに立ち上がり、その二人に歩み寄る。

そして、青年の方を見やった。やはり幼いか。メフィストの顔はあまり見たいものではない。
龍夜を睨むように見てくる(本人は見ているだけかもしれないが)青年に龍夜は口を開く。それは名前を聞くものではなく。

「お前、悪魔か」

その言葉に青年が目を見開く。その目には驚きと、なぜ、という疑問が含まれているように見えた。一方、メフィストはさすがと言わんばかりに笑った。それを龍夜はちらりと見たあと、どっちだ?と尋ねる。どっちかなど、疑問符が付いていないのだから分かっているが。

青年はしばらく龍夜を睨んだあと、

「っ、悪魔、だ」

途絶え途絶えに答えた。
言いたくない。そんな意図が見てとれた。が、龍夜は追及するでもなく、そうか、とどうでもよさげに頷いた。その様子に青年は目をまた丸くした。
何か辛辣な言葉でも予想していたのだろう青年に龍夜は再び問い掛けた。あくまでも声音は無機質だ。

「で、名前は」

「、奥村燐」

その名前に初めて龍夜の目が揺らぎ、次にメフィストを睨んだ。

「おいメフィスト。てめぇどういうつもりだ?こいつはジジィの、ガキだろ。だいたい…」

「ええ、ご察しの通り。青焔魔の落とし子です」

「ってめ、よくしゃあしゃあと…」

ふざけるな。
龍夜は言いたげにメフィストを睨んだが、そんなものに動じるほどメフィストは柔じゃない。意味がないと諦め、こちらを戸惑うように見てくる燐に視線を移動させた。その目には、諦め。そして納得。

「奥村、俺がこれからお前の上司兼相棒になる坂本龍夜だ。好きに呼べ」

「っおい!お前、俺が青焔魔の落とし子って「知ってるに決まってんだろ」っ」

燐の目が、揺らいだ。
そして、沈んだ声で、

「お前も俺が憎いのか?青焔魔の子供の俺がっ」

と。その言葉に龍夜は固まったあと呆れたように燐を見た。

「なんで俺が初めて会ったお前を憎まなきゃなんねえんだよ。馬鹿か」

「え、」

「お前、知らねぇのか?祓魔師にはお前みたいな悪魔と人間の合の子なんて珍しくねえ。んなもんいちいち憎んでたらキリねえぞ?青焔魔ってのは珍しいかもしれねえが、俺にとっちゃあ青焔魔だろうがなんだろうがどうでもいいんだよ」

龍夜にとって悪魔は確かに滅するものだ。が、それはあくまで祓魔師だからであって悪魔が憎いわけじゃない。青焔魔は確かに、龍夜の大切な人間≠殺した悪魔だが燐は青焔魔の子≠ナあって青焔魔ではない。憎む必要などない。同じ祓魔師なら尚更だ。

邪魔になるのなら、消す
邪魔にならないのなら、それで

分かったか?と言ってくる龍夜に燐は小さく頷いた。それを見たメフィストが龍夜に告げる。

「貴方に任せて正解でしたね。…ただし、」

「お前が俺にこいつを任せるのはもしこいつが青焔魔となりえた場合、殺すため、だろ。…お前の考え通りには動かねぇが、それは理解してる。」

誰が、お前の駒になるものか。

龍夜が苛立たしげに小声で返せば、結構、とメフィストは頷いた。
龍夜はそれを確認したあと、視線を燐に戻した。そして彼を真っ直ぐ見据えてはっきりと告げた。

「奥村、覚えておけ。お前がなんだろうが関係ねえ。ただし、俺の邪魔にならなきゃいい話だ。もし邪魔なら切り捨てる。それを覚悟しとけよ」

「わ、分かった!」

「…明日から任務だ。遅刻すんじゃねえぞ」

龍夜は燐が頷いたのを確認すると身を翻して部屋を出た。
残されたメフィストは横にいる、少しばかり晴れた顔をしている燐を片目に小さく笑った。

「…つくづく、面白い男だ」

何者にも相容れない彼だからこそ。託しがいがあるというものだ。

振り向かない、振り向くことを知らない一匹狼の周りには必ず人がいるのだ。






色付く視界の中で
(それが彼の美しさ)


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