39.その男、問う じくり、と腹の辺りに鋭い痛みがあるのを龍夜は感じた。腹痛などの痛みとはかけ離れたそれに、眉を寄せる。気だるいような体は地に伏しているように思えた。 なぜ、自分がこんなふうになっているのか。龍夜には分からなかった。ーあの少女の姿をした悪魔と対峙したところまでは覚えているのだけど。 「…龍夜!大丈夫か?!」 「おく、むら?」 そう思いつつ少し視線を動かせば、ひどく顔を歪めた燐が見えて、嗚呼、と思い出した。 たしか、記憶が正しければ、悪魔を説得しようと、無茶苦茶なことを言い出した燐に、当たり前ながら龍夜は呆れて、無茶だと言ったのだが、信じてくれとあまりに必死に言ってくるものだから、了承してしまったのだ。 悪魔の致死節が分からなかったことや媒体が生きた少女だったこともあり他になすすべがなかったのと、燐が悪魔であり、悪魔なりのコミュニケーションがとれるのではないかと過信してしまったせいもあるが。 だが、あくまでそれは推測でしかなかった。 説得を始めた燐の言葉の何かが悪魔の怒りに触れた、図星を突いてしまったのかもしれないが、とにかく悪魔の怒りを買ってしまったのだ。 怒り狂った悪魔というのは、厄介なもので。所謂、暴走状態になってしまい、それこそ手が付けられなくなる。結果、悪魔は燐に襲いかかった。最悪なことに、彼の武器を奪って。相手は悪魔に憑依されているとはいえ人間の少女で。燐が手をだせるはずもなくて。 ー思えば、咄嗟の行動だった。龍夜が、燐を庇ったのは。 冷静だったなら、燐が悪魔で、それなりの治癒力を持つことだって分かっていたはずなのに。自分の失態に苦笑するしかない。 でも、血を流したせいか頭が妙に冴えてきている。 龍夜はゆらりと立ち上がると、場違いに笑って見せた。 「…あぁ、そうか」 「龍夜?」 「なんだ?」 手、あった。 少女を救う方法。それも簡単な。立ち上がり、笑みを見せた龍夜に心配そうな顔をする燐と怪訝そうな顔をしている悪魔。それはなんだか対称的に見えた。 龍夜は血を唾液ごと吐き出すと、腰に備わっていた小型の、拳銃に似た銃火器を悪魔に突きつけた。 目を見開いたのは突きつけられた本人と燐だ。撃てるわけない、撃っていいのか人間に、そんなところだろう。 だが、龍夜はどこまでも冷静で。 「撃つぜ、離れねぇと心中だ」 「っ撃てるのか貴様!」 「撃つさ。そういうもんなんだよ、俺は」 任務のためには何物もいとわない。 そう淡々と告げる龍夜に、さすがの悪魔も少しばかり焦るような仕草を見せた。燐も、最初は焦った。だが、龍夜の目が何かを画策しているように見えて、黙った。龍夜にも龍夜の考えがあるのだと、龍夜が少女を救ってくれると信じて。 不意に、龍夜が笑った。無邪気な子供のように。なぁ、と龍夜が口を開いた。 「生きたいか?死にたいか?」 なぁ、どっちだ? The blue sky which burnt (焼け焦げたブルースカイ) prev:top:next |