祓 | ナノ
25.その男、困惑


「お前ら」

朝早く。本当に早く。
龍夜の声で、燐としえみ、出雲は目を覚ました。皆朝早いためか寝惚け眼をしてぼんやりと龍夜を見ていた。龍夜はその姿に溜め息を吐くと、暴発を防ぐためにまだ弾丸を籠めていない銃を抜いた。とたんに三人は背筋を伸ばして跳ね起きた。さすがに銃を突き付けられて起きない人間はいないだろう。突き付けた本人、龍夜は頭の片隅でそんなことを考えた。

「起きたか」

「龍夜!寝起きドッキリかよ?!」

「するかボケ茄子。さっさと仕度しろ」

「「?」」

燐の言葉をそう流して、龍夜は三人に言う。すると三人は仲良く首を傾げた。何の?直訳するとそんな感じだろう。龍夜は再び溜め息を吐いた。最近溜め息ばっかりだ。そして、呆れたように言った。

「任務だ。早く飯食ってこい」

祓魔師に時間の余裕などあっていいわけない。そもそも悪魔との戦いは時間の問題だ。悪魔というのは待ってくれない。どんどんと被害を拡げていく。もう明陀の何人かの祓魔師達は出払っている。龍夜がそう指示したのだけど。
援護であれのんびりしていていい理由なんぞありはしない。そんなことも分からないのか?と龍夜は視線を鋭くする。それだけで寒気が走る。龍夜の目付きの悪さも影響しているのか。それに気づいた三人は「はい!」と慌てて走っていった。

「…着替えぐらいしていきゃいいのに」

それを見送り、残された龍夜は一人呟く。誰のせいなのか。本人は知らぬままだ。




「準備できたか?」

「おう!バッチリだ」

「はい!」

「できてます」

しばらくして戻ってきた三人はそれぞれコートを羽織っている。龍夜が尋ねればそれぞれの返事が返ってくる。なんだか燐の高いテンションが心配だが、龍夜はひとまず流した。いつも奥村はこうだろう。そう言い聞かせた。

「…じゃあ、今回の任務について、というよりやることについて説明する。しっかり聞いてろよ、特に奥村」

「何で俺だけ!?」

「今回はひとまず手がかりを探せ。霊の大量発生についてのな。可能性は低いだろうが、もし霊と遭遇した場合はその場で祓って構わねえから。油断はするなよ。念のため二人一組で行動しろ」

そこまで言ったとき、出雲が手を上げる。候補生だったときの癖だろう。構いやしない。龍夜は出雲に何だ?と問う。

「二人一組って誰と誰で組むんですか?」

「…ああ、それか」 

出雲の言葉に龍夜はしばらく考える素振りをする。

二人一組で組むのには意味がある。身の安全のため。彼らのことを考えのことだ。だが、今さらながら考えるとかなり難しい。
まず、燐。彼は青焔魔の息子。普段は意識しないがそれでもその事実は変わることはない。監視しなければならない存在なのだ。いざ、彼が暴走した時、止められるのは恐らく龍夜だけ。二人には…無理だろう。
だが二人一組を組む場合、バランスを考えなければならない。簡単に言えば、前衛と後衛、守備と攻撃。龍夜や上級祓魔師は単体でどちらもこなすが、彼らにはまだ早い。
そして、龍夜には彼らを守る義務と意志がある。どちらを取る?


奥村燐という青焔魔の息子か、彼らの、仲間の保身か。

あえて言うならば、燐を信じるか、信じないか。
信じている。されど一抹の不安が拭いきれない。その優しさゆえに悩む。
こんなにも悩むのは久しぶりだ。昨日、考えておくべきだったと後悔する。答えが出たかは分からないが。

龍夜は、長く息を吐き出した。そして、

「…そうだな、」






完全よりも不完全を、可能性に込めて
(完成も、不完全もまた可能性であって零じゃない)  


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