祓 | ナノ
16.その男、疑問


 燐と共に理事長室に入れば待っていましたと言うようにメフィストが迎える。ただでさえ修業を邪魔され、苛立っているというのに。龍夜からはどす黒いオーラが出ていそうで燐は冷や汗を流す。なんでメフィストは平気なのか。きっとそれは馴れているからか。

「で、任務ってのは?」

龍夜は目を細め、メフィストに任務の内容を問う。こんな状況でも任務を果たそうとするのはもはや体に染み付いた癖だと龍夜は思う。忠犬とはよく言ったものだ。
メフィストはそうですねと龍夜の言葉に頷く。
燐も彼の声に耳を済ます。聞いていなかったのかと龍夜に怒られるのはごめんだ。

「今、ちょっと京都であることが問題になってましてね」

「京都?」

「はい。霊が大量発生していまして。あちらだけでは対処しきれないそうです。厄介なことに霊はあまり強い悪魔ではないのはずなんですが、あちらのは質が悪いそうで怪我人も出ているようです」

その言葉に龍夜は眉間の皺を深くして考え込む。霊は確かに強いわけではない。大事になることも珍しい。が、何より気がかりなのは大量発生ということ。霊は元を辿れば人間だ。人が死ねば一部は霊となる。だが、ニュースで京都やその他で死人が増えたなど聞いたこともない。そもそも、京都だけというのがおかしい。
─日本や世界の霊が京都に集まっているとでも?まさか、な。

不意にメフィストに視線を動かせば何か意味ありげなそれを含む笑みで見られ、ますます眉間の皺が深くなった。メフィストも悪魔。何か知っているのではないか、と思ったがすぐに振る。メフィストが教えるわけなどない。俺も、いや祓魔師はすべてこいつにとってみればチェスの駒に過ぎないのだから。

龍夜は内心の疑問を拭えないまま、メフィストを見据えた。雰囲気が少しばかり凍てつくが燐は気付かないようで、首を傾げている。そんな彼に内心呆れつつ、龍夜はメフィストに問い掛ける。

「つまり、俺達には京都に行けと?」

「はい」

「え、京都行けんのか!?」

旧友達に会えるのではないかと目を輝かせた燐を龍夜は声を低くして諌める。あくまで任務として行くのだ。観光じゃない。

「奥村、ちっと黙ってろ。」

「でもよ、俺京都に友達いんだ!」

大切な仲間。もうしばらく会っていない。
会えるかもしれないのだから、嬉しいのは仕方ないだろう?
そう目を向けてくる燐に龍夜は小さく苦笑いした。なるほど、奥村らしいと。だが、すぐに表情を堅くした。

「だとしても、事態が深刻なのに変わりはねえんだ。メフィスト、簡潔に内容を言え」

「分かりました。貴殿方には京都に霊の大量発生を調べて解決してもらいます。期限は解決するまで。貴殿方だけでは大変だと思うので、二人ほど援護を付けます」

よろしくお願いしますね☆と星を飛ばすメフィストに多少苛ついたが、了解、と龍夜は頷いた。
燐も龍夜の重々しい空気を悟ったのか、分かった、と小さく返した。そんな二人にメフィストは満足そうに笑った。

旧友達には会えるかもしれないが、任務であることを忘れるな。

部屋を出て別れる前に、龍夜に真剣味を帯びた声で言われ、燐は複雑な表情で頷いた。そんな彼に龍夜は気持ちは分かるがな、と仕方なさそうに笑った。






点と点を繋いだ
(偶然ってのは恐ろしい)


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