祓 | ナノ
1.その男、祓魔師


 一人の黒髪の男が何百といる悪魔と対峙していた。

男…龍夜はふかしていた煙草を地面に捨てると、悪魔にニヤリと笑い、黒い鉄の塊を構えた。そして、引き金を引く。

それは本能の告げるまま。

引き金を引いた。銃声が響き渡る。だが、龍夜は少しも顔をしかめることもなく、むしろ愉しげな笑みを浮かべ引き金を引き続けた。

カチン、と銃火器が弾切れをつげれば、めんどくさそうに舌打ちをしてそれを向かってくる悪魔に投げ捨て、素早く次のそれを取りだし、引き金を引く。再び鳴り響く発砲音。

弾切れになればそれを捨て新しい武器を取りだし弾切れになるまで撃ち続けた。辺りには空薬莢が散らばる。それは次々と銃声に比例するように量産されていった。



カチン、と何度目かの弾切れ。だが、龍夜はそのまま銃火器を沈黙させた。そして目を細めて辺りを探る。何も、気配はない。龍夜はそれを確認して銃火器を投げ捨てた。がしゃっ、と鈍い音をだしてそれは地に転がった。
どうせ、弾切れの銃火器など持っていても意味などない。

そこで初めて龍夜は口を開いた。

「任務終了だな」

満足そうな笑みが口元に浮かぶ。

そして龍夜は、通信機を取りだし、告げた。

「坂本龍夜。任務終了だ。とっとと引き上げるぞ」

そう言えば、通信機からは焦燥の声が返ってきた。

坂本隊長!しかし、まだこちらが…

「まだ終わってねえってか?」

も、申し訳ありません

「いや、構わねぇ。俺がそっち行くから持ちこたえてろ」

龍夜は返ってきた了解しました、という声を確認して通信機を切る。そして溜め息。

「めんどくせぇ仕事押し付けやがって…」

メフィストの野郎。

龍夜は再び舌打ちをして、腰に備わっていたコンバットナイフを取り出す。

「仕方ねぇ。もう一働きすっか」

そう零して、龍夜は歩き出した。向かう場所は部下の祓魔師達が交戦しているであろうその場所。
ゆらり、と黒いコートが揺れる。─祓魔師の証であるコートが。




悪魔がすべて鎮圧されたのはその数分後だった。




救いはないと知っていた祓魔師の話
(悪魔に救いはないのだ)


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