57.その男、決別 「皆変わってなかったな…。龍夜の時とはどうだ?」 「同じだな。変わってねぇ」 修道士への挨拶もそこそこに済ませ、師が眠る墓へと向かう。修道士達は少しだけ面々が変わったようだったけれど、さして変わりはないようで安心した。いまだに少し子供扱いされ不満と言えば不満なのだけど自分よりも燐の方が子供扱いされていたので笑って過ごした。 お前も大きくなったな、龍夜 大きくなったな、か。 たしかにあの頃とは視点の位置だって逆転してしまったし、きっと力だって知識だって龍夜の方が上かもしれない。けれどなんとなく敵わないて思うのは彼らの方が人生を長く生きているからなんだろう。 きっと、あんたにも一生俺は敵わないよな。 「…久しぶり、だよな」 「お、う」 「なに緊張してんだお前」 らしくない彼に苦笑い。 まぁ、気持ちは分からなくはない。花が弱々しく揺れている。 会話が途切れ、龍夜も燐もそれをしばらく見つめる。仮初め、それは黙祷のようにも見えた。 不意に龍夜が口を開いた。 「勿忘草と紫苑ってな」 「…おう」 「勿忘草は私を忘れないで=A紫苑はあなたを忘れない≠チて花言葉があってな」 少しだけ表情を曇らせ、言葉を区切る。 だが、すぐに前を向き、彼には珍しい柔らかな笑みを浮かべた。そしてまるで独白するように言った。 「俺はジジィを忘れない。でも、ジジィに縛られるのは止める」 燐が息を飲んだ。 俺は俺で 龍夜というたった一人の人間で 生きていける、生きていかなければならない 遺された者でもなんでもなく、ただ。ここに来たのもそのためだった。縛られることに決別をするために。何らかの形ある決定的なそれが欲しかったのもまた理由だけれど。 「だから、心配すんなよ。ジジィ」 「ー龍夜…」 心配しないでください。 もう俺は大丈夫です。 After all,life is just like a dream. (結局、人生とは夢のようなものさ) prev:top:next |