祓 | ナノ
4.その男、暴食


 まだ夜も明けきらない時間。正十字学園前に龍夜と燐はいた。
龍夜は燐に任務内容を告げる。

「今回の任務は援護だ。一応聞いておくが、奥村、お前取得称号は?」

称号によって祓魔師は戦い方が異なってくる。任務に不利かどうかも決まってくる。龍夜は持っていた紙から視線を外し、燐に視線を移す。

「ナ、騎士だ」

「刀剣か。俺は騎士、手騎士、竜騎士だ。今回は暴走した白狐を殺る。」

「殺すのか!?」

龍夜の言葉に、殺さなくてもいいだろ!?そう叫んでくる燐。龍夜はそれに目を細めた。それに燐は言葉を詰まらせる。龍夜は燐に声音を変えずに淡々と告げる。

「優しいのは結構だがな、奥村。そういう油断みてぇなんが他のやつらを危険に晒すっつうのを忘れんな」

「!」

「優しさも祓魔師にとったら命取りになる。他のやつらを死なせたくねぇだろ?」

優しさは油断に繋がる。
悪魔に油断など見せたら憑かれるかだれかが死ぬかが落ちだ。悪魔に情けはいらない。悪魔と人は違う。
龍夜はそんな現状を嫌というほど見てきた。

有無を言わさぬ龍夜の言葉に、

「…うん」

燐は小さく頷いた。
自分のせいで誰かが死ぬなんてごめんだ。
燐の返事に龍夜は満足げに笑った。




現状に着けば、そこには白狐と思われる咆哮と祓魔師達の声が混ざって聞こえてきた。龍夜と燐は素早く彼らに近づく。そしてそのうちの手当てをしている祓魔師の青年に、

「現状はどうなってる」

「坂本さん!かなり劣悪です…。怪我人も出ていて…」

「おおよそ分かった。お前ら!全員下がってろ!」

龍夜の指示に祓魔師達は言葉を疑うような表情になったが、龍夜の下がれという声にジリジリと後退した。龍夜の声音には、逆らうことを許さないようなそれがあった。

「っおい!お前だけで大丈夫なのかよ?!」

燐が驚きの表情を浮かべて叫べば龍夜はニヤリと笑みを浮かべて背中にかけてあった銃火器を取りだし、祓魔師達が下がったことにより見えるようになった、巨大な白狐に視線を向けた。口元には三日月が浮かぶ。

「さぁな。でもお前も手伝うんだろ?奥村」

「…当たり前だろ!」

燐の口元にも笑みが浮かぶ。怖くないわけではないけれど、今は武者震いだ。

「お前は援護に回れ。いいな?」

「分かった!」

燐は頷いて刀を抜き、龍夜の横に並ぶ。

「それじゃあ、始めっとすっか」

龍夜は銃火器の弾を装填すると、懐から一枚の紙を取りだし軽く噛んだ指から出た血を紙に押し付けた。龍夜の表情は危険だというのにも関わらず愉しげに歪む。例えるならば、新しい玩具を見つけた子供の様に。だが、龍夜の笑みに子供の純粋さはなく。ただ貪欲に享楽を楽しむように。
そして龍夜は小さく囁く。

「仕事だ、…戒」

思い切り、暴れるがいい。我が忠実なる狂犬よ。





食らいつくしてやろう
(俺は狂犬なのだから)


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