成り代わり | ナノ






喜助成り代わり




あの人たちは、面白い
相変わらず目の前で繰り返されるやり取りを見ながら名前は思う

名前の目の前では、彼女の部下であるひよ里と、名前と同じ隊長である平子が喧嘩のようなやり取りをしている

普段なら止めなければならない立場である名前だが、こちらまで巻き込まれるのはごめんで

助けろや名前!、と叫ぶ平子に無理です〜とにへらと笑って返すだけだ

そしてひよ里から攻撃を食らい悲鳴をあげる平子をまるで劇でも見るように平然に眺めていた



「大丈夫デスか?」

「あほ!大丈夫に見えるかいな」

「見えませんが、まぁそんだけ叫べるなら大丈夫ですかね、ほい」

「いっっ!何すんねん名前!」


ペシ、と傷を叩けば叫ぶ平子

へらへらと笑う名前と、アザ傷だらけになりながら名前に叫ぶ平子は対称的だ

それでも名前は手際よく平子の傷を治療していく

四番隊ほどじゃないにしろ、治療くらいできる

科学者だし、一応あの時≠フために治癒のための技術はひとしきり覚えていたから
ーー彼の代わりに生まれたと知った時から


何かしら、未来を変えるために。彼が望んだことを叶えるために

「はい、終わりです」

ひよ里さんと喧嘩するのもほどほどにしてくださいね

苦笑いを浮かべてそう言えば、平子はうるさいわ、とそっぽを向く

なんだか子供らしい。十分すぎる大人なはずなんだけど(年からしたらジジィを越えてるよなぁ)

それでも、頼りになるときはなる人だ。名前と変わらないくらいか、それ以上に強いから

「ハイハイ。まぁ喧嘩なら他所でやってくださいね」

「分かっとるわ。…ほな、」

歩いていく背中。とたんに名前は平子から見えない表情を歪めた
あの背中。いつ見えなくなってしまうのか、考えるだけで嫌になる

喧嘩を止めなかった理由
ただ、面倒だとか、自分が巻き込まれるのがごめんだから、だけじゃない

見ていたかった
変わらない日常。けれど、いつか変わってしまう日常を、頭に焼き付けていたかった


世界が破滅しても残る物があるなんて本気で思うのか

答えはYES
残してみせるよ


空が泣く前に
(足掻け、足掻け)


さらさら揺れる長い髪
決意を語る、狭くて広い背中
名前のすべて、名前の覚悟

………
アンケートより