風介と夜の屋台をみて歩く。闇の中に浮かぶ輝かしい光をはなつ出店は気分を上昇させる。水の中を泳ぐ赤い金魚、色とりどりのかき氷、てらてらと輝く赤いリンゴ飴、すべてが日常と違ってみえて、ここが近所の神社とは到底思えない。
風介は浴衣が歩きにくいのかいつもより歩くスピードが遅い。それにあわせてゆっくりと歩幅をあわせて隣を歩く。宵闇に照らされている風介の様子もいつもと違って輝かしい。

「なあ、あれやりたい。」
そう言って指さしたのは金魚すくいだった。青いビニールシートのプールに赤い金魚たちが何匹も泳いでいる。ところどころ黒いのも混ざっていて、赤い金魚の群に染みをつくっているように見えた。
風介は足早にかけよって屋台のおっさんからポイをもらっている。そのまま勢いよく水につけて、金魚をすくおうとしたが、すでにポイは破けていた。

「お嬢ちゃん、もっとゆっくりやらないと。」 
「なるほど。もう一回だ。」

代金をもう一度払って再びトライする風介。今度はゆっくりいれたが、やっぱり金魚をすくおうとして破けてしまった。  

「難しいな。」
「へただな、お前。」
「じゃあやってみろ!」

仲良くしろよー、と言うおっさんに代金を払ってポイを受けとる。水面近くにいる金魚に狙いを定めてゆっくりと後ろからポイを近づけた。金魚はびちびちしながら水面からすくいあげられた。すぐに水をはった器に移す。ちゃぷん、と音をたて金魚は狭い器の中を泳ぎはじめる。

「とれた。」
「うまいねぇ、あんた。」
このあいだテレビでコツをいっていたのだ。そのとおりにしたらまさか本当にとれるとは。金魚すくいが成功したのはこれが初めてである。 

「すごい、晴矢。」

キラキラと目を輝かせて風介は言う。こんな顔めったにお目にかかれるものではない。

「次は出目金を狙おう。」
リクエストまでしてきた。嬉しそうな様子がかわいい。すっかり気をよくした俺は黒く優雅に水面を漂ってる出目金にポイを伸ばした。








雑踏の中を風介は左手にブルーハワイのかき氷、右手はりんご飴を持って歩いている。もうすでに焼きそば、フランクフルト、焼き鳥を食べたというのに、よくはいるなとあきれた。

「お前、よく食うよな。」「なんだ、ほしいなら自分で買え。」
「いらねーよ。」

もうすぐ花火がはじまるので、その会場に迎っているのだが人ごみの中を進むのはなかなか大変だ。風介の手首にかかっている水のはいったビニール袋がゆれる。


「・・・悪いな、出目金とってやれなくて。」
「かまわない、おまけしてくれたし。」 

ビニール袋には二匹の赤い金魚がゆらゆらと漂っている。出目金をとりそこなったら、風介が落胆してしまって、その様子をみた屋台のオヤジがもう一匹くれたのだった。  
「これおまけするからさ、喧嘩しないで仲良くしなよ。」
そう言って一匹の赤い金魚を付け足されて、風介の気分がとたんに向上していくのがみてとれた。オヤジの気まぐれであんなめったにない嬉しそうな顔をしたことがなんだか気にいらないが、そこは我慢する。本当に嬉しそうだったのだ。

「何にいれて飼おうか。」
「ビンでいいだろ。ほら、コーヒーの。」
「そんなの狭いじゃないか。金魚鉢、買うべきかな。」
「いくらすんだろうな。」
他愛のない会話をして雑踏を歩く。金魚を風介の部屋に置くとしたら、部屋を訪ねる口実にできるな。そう考えていたら風介が歩みを止めてしまった。数歩先を行っていたところを引き返す。 

「どうした。」 
「足が、少し痛い。」
「見せてみろ。」

見ると風介の右足の親指が赤くすりきれていた。鼻緒があたる部分だ。靴づれしたのだろう。 

「なんではやく言わないんだよ。痛かっただろ。」
「それほどじゃない。平気だ。」

そうは言うが、これはだいぶ痛そうだ。俺はしゃがんで膝を風介の前に差しだした。

「足のせろ。」
「え、でも。」
「いいから、ほら。」

膝をたたいて促す。それでも渋るので足を引っ張って多少無理矢理に乗せた。 絆創膏をとりだしてぺたりと貼ってやる。行きにヒロトが持たせてくれたものだった。あの時はなんでこんなもの持たせたのかと思ったが、なるほど必需品だったわけだ。 

「少しはましになるだろ。」
「・・・・ありがとう。」
足をひっこめて下駄を履き直した風介はどこか照れたような顔をしていて、なんだかこちらまで恥ずかしくなった。 

「じゃあ行くか。」

手を差しだすと、ぎゅうっと握られる。しっかり握り返してやると、やはり照れたような顔と目線が交差した。そのまま手を離さないようにして進む。花火の打ち上げ時刻は目前まで迫っていた。 










この後花火見てラブラブなまま帰宅します。浴衣脱ぐ時に晴矢がちょっと残念そうにしてたらいい。
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