それが夢でも


酷く怖い夢を、見た。
夢だとわかっていても目覚めた後の不快感は拭えなくて、涙が止まらなかった。

そして涙がボロボロ零れたまま拭う暇も惜しくて、着崩れた寝間着もそのままに部屋を飛び出す。




「三成殿っ!!」

「なんだ幸村、喧し、ぃ…っ」


バタバタと音を立てて廊下を走っていれば、前から今一番会いたかった三成が現れたので駆け足で傍まで近寄る。

三成は一人騒がしい幸村を注意しようとしたが、幸村の表情を見て言葉に詰まった。

眉は垂れ下がり瞳からボロボロと涙を零す幸村に、三成は言葉を紡ごうとしたがそれは敵わなかったのだ。


「三成殿、三成殿…」

「…どうした、幸村」


グイっと腕を掴まれたかと思えば幸村に抱きしめられていて。

幸村の震える手に、三成は静かに幸村の背に手を回した。

肩口に触れる所が熱く涙で濡れていたが気にせず背を撫でてやると、抱きしめる力が少し強くなり苦しかったが何も言わずにいた。


「三成殿…」

「何だ」

「ぅ、っ三成殿ぉ…」

「私なら傍にいる」


まるで子供をあやすように背を軽くポンポンと擦ってやると何度も、三成殿、と幸村が呼びかける。

そのたび三成は、なんだ、どうした、と声をかけてやった。




それから暫くしてようやく涙がおさまった幸村は、今度は真っ赤になっているであろう目を見られるのが恥ずかしくて顔が上げれなかった。

三成もそれを咎める事はなく幸村から口を開くのを黙って待つ。


「…すみませぬ、三成殿」

「かまわん」


ポンポン、と何度目かわからないが幸村の背を擦ってやる。

暫く三成の優しさに甘えていったが夢の事が忘れられなくて、震える体に叱咤して口を開いた。


「三成殿は…某の傍にずっと、ずっと居てくれるでござるか?」

「なんだ急に?」

「…三成殿が某の前から居なくなって探しても探してもどこにも居ない…そんな夢を見たで、ござる」


夢の中でどんなに叫んでも泣いても名を呼んでも、自分を呼んでくれなくて。

探しても探してもどこにも居なくて、夢から覚めた後は正直生きている心地はしなかった。

そんな幸村をよそに三成は小さく溜息をつくと、パシンと軽く幸村の頭を叩いた。


「??三成殿…?」

「貴様はそんなすぐに諦めてしまう男か?」

「っ!」

「私は例え夢でも幸村が見つけてくれると信じている」

「三成殿…」

「いつまでも、な」


ふっ、と小さく微笑んだ三成に幸村は少し体を離し、三成の両肩に手を添える。

先ほどまでの情けなかった顔ではなくなり、いつもの凛々しさが幸村の瞳に宿っていた。


「では、では某は必ず見つけまする…っ!きっと、必ずっ!!」




それが夢でも現実でも
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