決まっていた
「最近、石田殿を見ると此処が変なのでござる」
此処、といって右手を己の左胸に当てる幸村はとても情けない表情で目の前にいる三成を見つめる。
それに対し三成は苛立ちをあらわにし幸村を睨んだ。
「私に聞くな」
「しかし酷い時は胸がドキドキしすぎて何も考えられなくなる程で…某どうしたらいいのか…」
「知らん」
「石田殿…」
「私より貴様の忍に聞けばいいだろう」
何故私に聞く、と言って幸村から視線を外し机に置かれた書状に目を通す。
体の向きも変えたので今は幸村に背を向けている状態だ。
これ以上の会話は聞かない、といったつもりなのだろう。
けれど幸村は気にせず眉を下げ視線を畳に向ける。
「佐助にはもう相談したでござる」
「………忍はなんと言った?」
「それが…自分で答えを見つけろ、と言われ…」
「なら貴様一人で考えるんだな」
「い、石田殿ぉ…」
なんとも情けない声を出して今にも泣きそうな顔で、三成を見つめる。
いや、実際涙目になっているのだけれども。
しかし三成は話は聞いてあげたものの幸村を見向きもしなかった。
「某、石田殿と話せば何かわかると思い…」
「………」
「石田殿」
「っ、なに、…」
クイッと袖を引っ張られて振り向けば、鼻と鼻が当たりそうな程近くに幸村の顔があり言葉に詰まる。
近付いてくる気配はしていたがこれ程近付いていたとは思わず、それほど幸村の事を認めていたのかと少し、驚いた。
「…近い、真田」
「石田殿」
「…な、んだ」
至近距離で真剣な眼差しを向ける幸村に目が離せない。
今までに感じた事のない心のざわつきに三成は困惑した。
「……見るな」
「は?」
「そんな目で…私を、見るな」
「〜〜っ!!」
眉は寄っていて怒っているかの様に見えるが、ほんのり朱に染まった三成の頬に幸村の心が高鳴る。
そして顔中が一気に熱くなっていくのがわかった。
きっと自分が纏っているこの赤い衣装と同じ位、赤くなっているであろう顔が恥ずかしくなって幸村は思わず俯く。
「真田」
「はっ、はいっ!」
しかし静かに呼ばれた己の名前にガバリと顔を上げると、三成の綺麗に澄んだ瞳と目が合う。
心だけでなく脳や体や目、全てが三成に奪われた様な感覚に眩暈がした。
「私の事が…好きか、?」
その言葉がストンと心の隙間にはまって満たされた気がした。
「好きでござりまする…誰よりも、石田殿ただお一人を…」
答はもう決まっていた