触れて愛を



いつから自分はこんなにも欲深くなったのだろうか。


好きだと告げて恋人になれて、初めはそれで満足していた。心が満たされた。

けれどそれだけでは満足出来なくなって触れたい、手を繋ぎたい、そう思い実行してみた。

触れた三成の手はひんやりと冷たくて、でも手の熱い幸村と繋いでいればジワジワとその熱が伝わって三成の手も温かくなり嬉しかった。


その嬉しさは変わらなかったのだけれどまた物足りなく感じて、今度は抱きしめてみる。
手よりも触れている部分が多くて、より三成を感じる事が出来て幸せを感じた。



けれど、また。
また物足りなくなって、それだけでは満足できなくて。

もっと、もっとと三成を欲した。

その唇に触れたいと、口付けを交わしたいと思った瞬間、自分の欲の汚さに嫌悪した。





「某は…某は、最低でござる…」


三成から与えられた大阪城での幸村の部屋で、頭を抱えてゴロンゴロンと寝転がる幸村に佐助は苦笑を漏らす。

もう昼前になるのだけれど朝から幸村はこの調子で、たまに唸っている。正直、怖い。


朝から顔を見ない我が主に疑問を感じ、様子を見にきていた佐助だが理由を聞いても「破廉恥!」と何故か叫ばれて話にならず。
佐助からすればもう放っておきたかったのだが、尋常ではない様子の可笑しくなった幸村をやはり放ってはおけなかった。


「ねぇ、旦那ー、もうそろそろ昼食だよー?要らないの?」

「要るっ!いや、しかし…今のままでは某、三成殿に顔向け出来ぬ…」

「石田の旦那がどうかしたの?」


恋人同士になれて上手くいってたのに?、と口には出さず首を傾げる。

幸村はゴロンゴロンと動き回っていたのを止め、ゆっくりと起き上がった。

俯いていて表情は伺えないが、落ち込み様は半端ない。


「俺は…汚い」

「……はい?」

「もっと三成殿に触れたいと、唇に触れたいと…そう、思ってしまった…」


このままでは己の欲で三成殿を汚しそうで怖い、と告げた幸村は我慢が出来なくなって涙を溢した。

そんな幸村に、想いが通じ合えばそうなるものだろうと佐助が口を開こうとしたがその前に、静かに戸が開かれた。
幸村は気付いていなかったが佐助は現れた人物を見て、安心した表情を向けると静かにその場から消える。


「貴様はそんな事で悩んでいたのか」

「っ!!?ぇ、あ、みつ…なり、どの…?!」


幸村はガバリと勢いよく顔を上げ、目を見開いた。

今までの会話を聞かれていたという羞恥に固まったままの幸村に、三成は幸村の前に座りジッと見つめる。その瞳はどこまでも真っ直ぐに澄んでいてとても綺麗だった。


「幸村」

「は、はいっ!」

「幸村は私に触れたくないのか?」

「いえっ!…いえ、逆でござる…触れたくて触れたくて仕方のうございまする」

「なら、触れればいい」

「っしかし…!」


ジッと見つめる三成に自分の欲の汚さを見透かされたくなくて、視線をさ迷わせていたがふと影が出来たので視線を前へ向ける。

すぐに影はなくなったが幸村が混乱するには十分だった。
三成に、口付けられたのだ。


「み、三成、殿っ」

「私だって幸村に触れたい。そんな私を汚いと思うか?」

「いいえ!そんな事ござらんっ!!」

「なら貴様も同じだ。触れ合う事に汚いことなどない」


ふわりと優しく微笑む三成に、幸村は嬉しさのあまり三成に抱き着いた。


「…三成殿には敵いませぬ」


あんなに悩んでいたのに三成の言葉でこんなにも満たされるなんて。




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