女性には、理不尽にも月に一度超えねばならぬ壁があるらしい。肌荒れに腹痛に腰痛に頭痛に吐き気に貧血、ホルモンバランスの乱れから情緒不安定になる人も居ればそれほどでもない人も居る。しかし目の前で眉間に皺を寄せているドSは前者の症状に苦しんでるらしい。脚を組み壁に何度もヒールをカツカツとぶつけていた。確実にイライラしてる。そしてその苛つきを近くに居る僕にぶつけようとしてる。話しかけられるのを待ってるのがわかる辺り自分が恐ろしく感じた。
「ねえ、」 「なに?」
痺れを切らしたドSがこちらを向いた。こちらに来いと視線で訴えた辺り何かを要求しているのか、口頭だけ要望を聞いたら紅茶が飲みたいと言ってきた。カフェインはあまり良くないからホットミルクにしたら、と返したらじゃあココア、と妥協してくれた。台所へ向かう途中兄さんが買い出しからちょうど帰ってきたようで、屍のように机に伏せているドSを見て驚いていた。
「ドS大丈夫か?!」 「大丈夫に見えるなら燐くんの目はおかしいと思う」 「ど、どうすれば良い?」 「…」 「お腹痛いのか?頭痛いのか?」
オロオロとする兄さんに苛立っているのか沈黙を通し続けた。そうして兄さんは困った果てにミルクを温めている僕の元へ来た。
「雪男、あいつどうしたんだ?」 「あー、月の物だからそっとしといてあげて」 「は?月の?」 「あんま刺激しない方が良いよ(駄目だコイツ)」
ココアの粉を入れながら混ぜている間も兄さんはクエスチョンマークを浮かべていた。変に探りいれてドSに刺激を与えて痛い目見なきゃ良いけど。
「お待たせ。もし辛いなら自室に戻って横になりなよ」 「あと少しで任務だし自室だと寝ちゃうから此処に居る」 「無理しないで」 「…うん」
珍しく忠告に対して素直に頷く辺り相当酷いみたいで、何も出来ない自分が少し情けなかった。けど僕の部屋に来る辺り頼ってくれてると思っても良いのかな
「雪男の部屋、クロが居るから癒やされるのよね。おいでー」
だろうね。とか甘い期待した自分はバカだった。
「あ、ドS、もしかして生理か?」
びしり、と空気が凍った。兄さんはけろりと言いのけたがドSの表情は氷のように冷たかった。
「燐くん、生理ってね、とっても辛いものなの」 「そうなのか…俺が出来る事なら何でもやるから」
警告。兄さんは自分で自分の首を絞めている事を自覚すべきだ。
「じゃあ、痛みを思い知るべき」
嗚呼、僕には止められなかった。兄さんの脇腹には見事にドSの蹴りが入った。衝撃で姿勢が変わる兄さんは目をぱちくりさせて言葉を発しようとしたが背中をヒールで踏まれ、黙り込んだ。
「この数倍の痛みが一週間続く上で生きてんの、女の子は辛いの、そして強いの」 「は、はい!」 「そしてデリケートでもあるから、これに懲りて野暮な事は女の子の前で言わない事!!わかった?!」
グリッとヒールを食い込ませた姿を見て少しどきりと胸が鳴った。いやおかしいだろ、こんなのどうみてもただのSMクラブだしっかりしろ僕。
「すいませんでした!!!」
ガッ、と四つん這いに近い兄さんを蹴り上げたら、また来るわ、と少し冷めたココアを一気に飲み干しコートを来て外へ出た。次来た時には機嫌が良くなってると良いね、と兄さんの肩に手を置いた。
痛いほど分かりました しばらく兄さんは女の子に優しかった
ーーーーー
prev
|