ぶつかった額に痛々しい鮮血を垂れ流して、こちらを見つめる瞳は僕を貫くようだった。危ないよ、殺されるとこだったね、なんて彼女は平然てして言うがまるで説得力がない。辺りの悪魔の気配を無くなり、全て倒したか確認してから、糸が切れたように顔色を青くした。一秒前の殺気を解放するように床に膝をつき、頭を抱えてぽたぽたと滴る血を見ては眉をしかめていた。


「…完全に貧血ですね、」
「あはは、フラフラするねー」
「その様子じゃ、歩くのは危ないのでおぶります」
「んー、甘えちゃおっかな…」
「甘えるも何も危ないからです、ほら」


背中に感じる温かみは、コート越しに微かに伝わる。あまり感じない重みと、血が通ってないんじゃないかと不安になる指先が僕の首筋に一瞬触れ、ひやりと一瞬だけ走る悪寒に背筋がぶるりと震える。そんな僕に気付いたのか、ごめんねと後ろから聞こえた。何を今更とか思いながら、気にしないで下さいと他人行儀な当たり障りない返事を適当に返す。ドアの鍵を出して、医務室へ真っ先に迎えば、何故か制止をかける。ぎゅっと握る指先は、肩に痛いほど食い込む。その場で、止まりおぶったまま理由を聞けばただ嫌いだから、とこどもっぽい言い訳をされた。訳が分からない。

「…じゃあどうやって治療するんですか」
「部屋戻って寝れば治る」
「ふつうの人間はそんな漫画みたいな身体してません」
「やだ、消毒液の匂い嫌い」
「少し我慢してください。」
「…」
「…」

だんまりを決め込み、医務室の前で2人して沈黙の交戦が続く。結局僕が折れ、名前さんを僕の部屋で、手当てをする事にした。医務室は良くて僕の部屋なら良いと言うのも不思議な話しだけど、手当てを受けるのであればなんでも良い。あちこちの傷を消毒して絆創膏にガーゼと貼り付けての応急処置を済ませば、青白い顔がこちらをまた見つめる。あの、瞳。ただ視線を逸らせず、やっと身体が動いたと思ったら彼女の指先を掴んでいた。驚いた顔をされたがやっぱり、指先は冷たくて、僕の体温を分けてあげれたら、と訳の分からないリアリティのない思考が脳内を占めた。

「雪男くんの手、あったかい」
「名前さんが冷たすぎるのかと」
「じゃあ暖めて欲しいな、手」

きゅ、と閉められた指に、少し心臓が早くなった気がした。気づいた時には彼女の指先はわずかに暖かくなっていて、どれだけ指をとっていたのか気恥ずかしくなって指を離した。少し冷たくなっていた自分の指先に、先ほど考えた自分の体温を分けたいとか言うのが、こんな感じなのかもしれないと、謎の感覚が生まれた。残った胸のわだかまりと微妙な冷たさが、締めつけるような気持ちを強まらせた。そんな複雑そうな僕を見て彼女は綺麗に笑うのだ、何だかずるいと思う。
2012.12.26
安定のもだもだ