背伸びしてみたかった、と言う理由でちょっと高めの可愛いヒールを履いた。髪の毛だって念入りにケアして、今日この日の為に、全てをかける勢いで、気合いを入れた。意中の相手とのデートなんだから、朝早く起きてメイクに鞄に洋服にとちゃんと準備した。はずなのに。警報、警報、私の足が限界に近付いて静かに悲鳴をあげている。それでもすごく嬉しいし楽しいから笑顔は自然と出てるはず。痛みなんて忘れないと。

「名前ちゃん、取れたで!」
「えっ?!」

四の五の考えていたら、UFOキャッチャーの前で両手で大きなぬいぐるみを抱え込み笑顔の志摩くんがはなしかけた。ふんわりとした肌触りの良いつぶらな瞳と志摩くんの可愛さと言ったらもうずるいぐらい。素直にふにゃりと緩む頬を見て志摩くんはまた笑顔になった。

「あ、一緒にプリクラ撮りません?キャッチャー記念ですわ」
「うん!」

再び少し歩を進めた。途端にずきりと痛みを知らせる指先に苛立ちながらも、ゆっくりと話しながら歩いた。

「ここでええ?写りが綺麗って」
「…」
「名前ちゃん?」
「あ、うん、」

歩けないわけではないの、ただ、もうちょっと頑張って欲しいとつま先に祈っていたら志摩くんに話しかけられていたのに気付かず、志摩くんが不思議な顔していた。は、と気付いたような顔をした瞬間、志摩くんはその場に跪いた。

「足、痛いん?」
「うん、大丈夫だよ!早く撮ろう?」
「嘘はいけませんえ」

心臓がばくりと嫌な音をたてた。いつものように温和ではない、真剣な瞳で私を叱るような、そういう言葉で優しさを与えた。ごめんなさい、と謝れば背伸びしてくれたんだ、と嬉しいのか残念なのかよく分かんない顔をして、ゲームセンターのベンチへと座らせた。先ほど取ったぬいぐるみを膝に乗せて。ちょっと待っててな、と言いどこかへ向かった。数分したらコンビニの袋と小さな紙袋を持って、急いだ様子で再び現れた。

「ちょっと足ええ?いちお消毒しますわ」
「え、あ、ごめん!!」
「いやいやこんな近くで足を見れてご馳走さまです」
「志摩くん!!」

優しい人すぎて、好きが溢れてどうしようもない時ただ名前を呼ぶしか出来ないんだ。優しさが胸をぎゅうと、締め上げ息が詰まる。苦しいのに心地良くて、言い表せない感情が広がりただ脳内が志摩くんが好き、としか浮かばないくらいには末期だ。「知ってました?」
「なにを?」
「ヒールなんか履かんでも化粧せんでも、名前ちゃん充分可愛えってこと」
「可愛くないよ!しえみちゃんみたいに目ぱっちりしてないし、出雲ちゃんみたいに脚長くないし!」
「名前ちゃんは名前ちゃん」
「しまく、」

可愛い、なんて勿体無い言葉、やめてなんて言えないから。

絆創膏を貼られて痛みが柔らいでいったつま先の次は、心臓が好きすぎて、どうしようと痛みを訴え始めた。取り返しがつかないぐらいです。




2012.02.14.

糖分高め。(当社比