小さな2つの手で1つの銃を構え、焦点を合わせて、引き金を引けばパァンと弾けてボールが割れて地面に落ちた。どんどん命中するそれを見ていると僕の目には楽しんでるようにも見えた。自分にも迫るボールなんか忘れてよそ見をしていたら、彼女を見るなとでと言いたげにボールが足下をかすった。そして彼女は飽きたのか、終わりーっと声を出してその場を離れて終了ボタンを押した。

「片手じゃ雪男くんにはかなわないなぁ」
「名前さんの命中率にはとても、」

先ほど足をぶつけた所は見られてなかったみたいで、近くに腰掛けたまま立っている僕を見つめていた。ばちりと目が合い、少し恥ずかしくなる。それを感じ取ったのか、隣においでとベンチを指さし催促された。素直に腰を下ろすと、指を絡められた。

「明日、五回忌なの」

いつも、そうだ。命日が近付くと不安になって泣きそうな顔で僕に縋る。ただそっと片腕で肩を抱いてあげるしか出来ない僕は何より弱い。胸が痛いくらい締め付けてくるから、泣きたくなった。つい、と名前さんの顎を指先で上げて、そっと唇を近付けた。

「すいません、つい…」

すぐ離し、謝罪の念を呟く。謝らないで、と言われたけど、僕はまたすみませんと返した。そして泣きそうな顔のまま何も言わず、再びキスを交わしてきた。この人はこの世界で息をするのが苦しいみたいで、それをぶつけるような口付けをする。僕はそれに応えようにも激しさに息継ぎをする事も出来ず苦しくなってただけだった。そのまま、唇を離してベンチに押し倒す。待っていたかのように、静かに敷かれた彼女は僕にはとても艶めかしく見えた。

「んっ、雪男くん」
「抱かせて下さい」
「そうゆうのは聞かないでいいんだよ?」

笑って首元に手を回される。これは彼女にとっての合図だった。そうなれば話しは早い。僕は心を毟り、彼女を掻き抱くだけだ。先ほどのお返しにと唇を貪るように絡ませた。ほんの少しの香水の香りと、甘い毒にも似たアルコールが混ざりあい、くらりと脳内に麻酔をかけた。俗に言うこれはいけない事である筈なのに僕はどうしてか依存を覚えてしまって取り返しのつかない所まで行った。ならば溺れてしまえばと開き直って受け入れたのに、現実と言う縄が首を絞めただけだった。

「好き、です」
「ゆ、きおくん?」
「好きなんです、名前さん…!」

熱に浮かされながら、僕は初めて気持ちを主張した。いつの間にか頬に涙が伝ってたみたいで、名前さんは僕からは何も言えない表情をしていた。溺れてしまって、息が出来ないくらい、どうしようもなく痛くて苦しくて愛おしくて、苦しいんです。どうか僕を、一番に愛してくれませんか?



2011.12.26
ぷち企画の年上未亡人と雪男くんです。
なんか雪男くん悪魔落ちしそう