4〜寝起きの悪いモブ〜 「ディーくん〜。そろそろ起きる時間だよ〜」 頭を優しく撫でられながらそう声が聞こえてきた。聞き覚えがある懐かしい声だ。それでもオレの眠気はまだ健在で、オレの瞼を開こうとしない。 「もう少しだけ…」 いつもの調子でオレは身体を丸めて眠ると言う強い意思表示をした。 「相変わらず、寝起き悪いね」 呆れ気味にそう言われるが、撫でられる手は気持ちがいい。それに酔いながらオレはもう一度お願いする事にした。 「父ちゃん、もうちょっと〜」 ここ数カ月ほどは聞かなかったが、以前は毎日父にこうして起こしてもらっていたオレである。 大抵、それでもオレは起きない。寝起きの悪さは自他共にかなりのものだ。 オレが起きるのは決まって…。 「もう!父ちゃん、甘やかし過ぎ!この子はこうでもしないと起きないんだから!」 げふっ! 思わず、声が詰まる。それはそうだろう。なんせ、いきなり背中をドンっと足蹴にされたのだから。 そんな乱暴なことをするのは1人しかいない。 「…母ちゃん、ひどい」 いつもベッドから転がされていた。布団をはがされ、足で蹴って落とす。 今は蹴飛ばされても大丈夫だったからいいけど、あれは痛いんだぞ。特にケツから落ちた時は、数時間響くぐらいなのだ。だからボソッと批難した。意味ない事は分かっているけど…。 「父ちゃんの愛は私のモノだと言っているでしょ?優しく撫でてもらうのも私だけなんだから!」 相変わらずの父ラブな母は検討違いの嫉妬をぶつけてくる。オレを父が可愛がるのすら嫌らしい。虐待された訳でないけど、そのせいで究極の放任主義の教育になり、ボブサブに振り回される幼児期になったような気がするのは被害妄想か? 両親が仲がいいのはいい事だとは思うが、弱気で逃げ腰な父をまるでイノシシか獣のように追いかけまわして自分に縛り付けている母を見ていると、母の愛は重すぎて父が不憫だと感じる。 怖いから口には出さないけど。 蹴られた痛みでようやく眠気が旅立ってくれたオレは、大きくあくびをしながら伸びをした。 そんなオレの目の前でパンっと大きな音が立つ。 「のん気な子ねぇ〜。早く夢の国から帰ってらっしゃい」 その声にオレは瞼を広げる。視界一杯に広がるのは合唱している長細く白い手。指の爪は真っ赤なマニキュアが塗られている。傷やシミ一つないその手は見た事もないほど美しかった。 さらにその持ち主である女性の姿に頭がパニックになる。ぼんっと膨らんだ豊満なおっぱ…胸にぎゅっと締められたウエスト。長く細い足に、金色の波打つ髪。真っ赤に濡れた唇に大きな瞳。見た事もないほどの迫力ある美女。 「え?だれ?」 この場に居るのは絶世の美女。この虐待のような足蹴は間違いなく長年されてきたもので母によるもののはずなのに、その姿が見えない。 「母ちゃんがわからないのかい?薄情な子ねぇ〜」 そう言うと、ぱちんっと指を鳴らした。その途端に、一瞬でその姿は変わる。そこに来たのはモブ顔の村のおばちゃん…我が母ちゃんの姿だった。 あれ?なんか、戦隊ものの変身を解いた時のような感じだ。 今のボンキュッボンの美女はまやかし? それとも男にばかり迫られていた為に、女と言うだけでこの母でも絶世の美女に見えてしまう怪しい病気なのか?オレ。 終わっているな、それは…。 「あ〜また下らない事考えているだろ〜?さっさと今の状況を考えな」 「母ちゃん。そんなにディーを責めなくてもいいだろう。まだ、意識がしっかりしてないんだから」 「あ〜ん。貴方が優しくするのは私だけでいいのよぉ〜」 「い、いや。き、君の事はた、大切だけど…」 「うれしい、あ・な・た」 1年ほど前は毎日聞かされていたノロケ漫才。久々に聞いても懐かしさより呆れが勝つ。 「母ちゃんも父ちゃんもその辺にしてくれよ…。寝起きにそのノリ、きついんだから…。あれ?」 ここでふと、疑問に思う。 なんで2人がそばにいるんだ?そもそもここはどこ?さっきの変身美女は誰だ? 段々思考回路が動き出すと疑問が頭の中でモクモクと膨れ上がってきた。 UNION・■BL♂GARDEN■ |