無意味な転生 | ナノ

3〜何も進まないやり取り〜

 オレの言葉が2人の逆鱗に触れたのだと悟る。
 確かに彼らの強すぎる想いを軽んじている言葉なのかもしれない。それでも、言い訳をさせてもらいたい。
 勇者と魔王と言う不本意な立場を放棄するためには、地球に戻るのが一番手っ取り早く楽な道だろう。本人たちがその気がなくても周りが黙っていてくれるような立場ではないだろう。
 こうして逢えたことは常識はずれな事は承知の上だが、それでも何よりも嬉しいサプライズだった。あんな最悪な死を2人に見せてしまったことに対して悔いがオレの中で常に渦巻いていたから…。
 だからこうして逢えた事だけでもう充分だった。これでオレは伝次郎としてでなくここの世界の村人ディーとして過ごす事ができる。
 大切に思っている2人だからこそ、オレの為に道を外さずに元の世界で輝かしい未来を生きてほしい。
 そう自己完結していたのだが、そうは問屋は降ろさんとばかりに矢を継いでくる。

「それで、今の幼馴染みのクズどもの所に行く訳か?てめえ」

 勇司に痛いところを突かれて、オレはギュッと口元を結ぶ。そう言えば、そのことを知られていたのだったっけ。

「あの身体を好き放題にしたのは彼らか、なるほど」

 祥治はそう言うと、今まで黙ってこちらを見ていたボブとサブにその物騒な視線を向ける。
 勇司に抱きかかえられたまま2人のやり合いを見る羽目になったので、正直2人にまで視線を向ける事はできなかった。
 どうやら沈黙を守り勇者と魔王に対して構えをとって隙を狙っていたようだ。魔力も聖力も欠片ほどにしかないただの村人であるオレでも分かるほど、2人は規格外の力を持っている。この世界で最強だろう。だからいくらボブとサブでも到底敵わないと判断が付つ。
 それを2人が分かっていないはずがない。
 それでも、2人は退く所か、じっと魔王と勇者を見据えていた。

「例え、魔王だろうが、勇者だろうが、関係ねえ。そいつは俺達のディーだ!」

「ディーを元の姿に戻して、お二人はとっとと自分の世界に戻って下さい」

 2人は力強くそう訴える。無謀すぎだろ。どう考えても…。

 オレの血の気がスーと引いていくのを感じる。オレの意見と一緒だが、勇司と祥治が2人の意見を聞くとは本人たちも含めてこの場にいる誰もが思わないだろう。
 案の定。
 オレを抱きかかえる勇司は冷酷な笑みを浮かべながら物騒なことを言い始めた。

「祥治。一時休戦だ。まずはゴミ排除してからだ」

「お前と組む気はないが、ちょうど2人いるんだ。取り分は1人ずつな」

 勇司だけでなく、祥治まで同じようにボブサブ抹殺宣言をし始めて、オレは慌てて止めに入った。

「赦さないからな。オレの幼馴染みたちに危害を加えたら絶対にオレは、赦さない!」

 村人モブが天下の魔王と勇者に言う事ではない。ただ、完全無視されるのがオチだ。でも、祥治と勇司がその言葉に重きを置いてくれることは狡賢いが分かっている。勇司が不機嫌顔でちっと舌打ちしているのが何よりも証拠になるだろう。

「そう言うなら、伝。俺の傍にいて。そして二度と彼らを視界に入れるな。そしたら、見逃してあげるよ」

 魔王そのものの邪悪な笑みをこちらに向けながら祥治はオレを脅してくる。
 オレに選びようのない選択肢を出してくるのはいつもの祥治のやり口だ。とはいえ、これほど性質の悪いのはなかったが…。

 この場に魔王とオレとボブサブしかいなければ、オレは仕方ないとボブサブを村に返して、祥治を説得する日々を続けようと思っただろう。しかし、もう一人の存在、勇司が黙っている訳がなかった。

「おい、こら、勝手に決めるな。伝次郎の傍にいるのは俺だ。祥治に渡さないって言ってるだろうが」

「勇司の傍に伝が近寄るわけがないだろう。いい加減、妄想を口にするのは止めろ」

 再び舌戦が始まるのをオレは少々うんざりして大きくため息を吐いた。万事が万事、この2人はこうなのだから巻き込まれるオレの身にもなってほしいものだ。

「だぁ〜。いい加減にしろ。2人とも。勇司、いい加減、放してくれ。祥治、とっとと身体を元に戻してくれ」

「「…」」

 こんなときだけ息がピッタリな2人は黙り込むことでオレの訴えを退けた。

 なに?この膠着状態。オレにどうしろと?無力な村人に、こんな役目、重すぎだぜ。そもそもいくら力があるとはいえ、この世の勇者と魔王がこんな自分勝手な奴らでいいのか?もっと、世界征服とか世界平和の為にあくせく働くもんではないだろうか?

「タッサク神って何を考えているんだろ…。いくらなんでも、こいつらは無いだろ」

 ため息交じりにそう呟いた瞬間。オレの身体に異変が起こった。
 驚く暇も与えられずに、いきなり視界が真っ暗になり自分の身体を支える事ができなくなる。それどころか、ふわっと身体が浮くような妙な感覚になった。

 そうして、オレは何が起こっているのかも分からないまま、意識を失った。


 
 急展開ですみません。次回、意外過ぎる人物の登場です。
 自分で書いた奴を見て私が思った事。この主人公、いきなり強制的に気絶させられすぎ(笑)最弱なので、強い奴に好き放題されまくりだな。そのままレイプってパターンはなかったけどね。
 さて、次回、登場するのはだれでしょう?分かりますか?よかったら耳打ちしてみてね。


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