1〜犬と猿に挟まれた酉〜 へいへい。聞いてくれ! 何をって?それは今の状況をだよ。 場所は魔王城の一郭。でも、魔王城の最奥ではなく、螺旋階段である。上を見上げるとまだ5周ほどはらせん状に階段が続いている様子である。下は暗闇にのみ込まれておりどれほど続いているのか分からないが、自分がいる位置はかなりの階数であることぐらいは察知できる。 それは先ほど魔王である祥治や幼馴染みのボブサブが居た場所である。 そう言えば、祥治に抱きしめられていたのに、いつのまにかオレは勇司の前に空間移動させらえていたのだったな。 魔王や勇者であるから祥治や勇司が反則チートであることぐらいは理解している。オレと同じでそんな魔力や聖力など、まったく無かった世界に居たくせに当然のように魔力を使いまくる2人。 それに対して僅かな違和感をオレはおぼえるが、2人のチートぶりは地球に居た時から腐るほど見てきたので、どこかそれに対して納得できる。こいつらならアリだろうと…。 つまり、世界が変わろうが、チートはチートと言うわけだ。 そして今の現状。 オレは勇者に抱きしめられている。おそらく勇司は自ら編み出した空間を閉じ、元々いた場所に移動したのだろう。 もう移動できたなら放して欲しいものだが、背中に回された腕の力が緩む様子はない。オレは自分の非力さを充分に理解しているので、自分で勇司の拘束から逃れようとする気はない。それは無駄な体力の消耗にしかならないと分かっているからだ。 抱きしめられたまま、顔を横に向けて視界を広くする。 そこには、不機嫌その物の細く鋭い目をこちらに向けた祥治の姿があった。思わず縋るような気持ちが沸き起こる。 それは充分伝わったようで、小さく頷いてから祥治は強すぎる眼光をオレから勇司に向けた。 その途端に、2人から殺気立った物騒極まりない気配が膨張する。 「伝を離せ、勇司」 「はんっ。離すと思っているのか?この俺が他でもないお前の言う事を聞いて?めでてえ奴だな」 相変わらずの犬猿の仲である2人。それは世界が変わろうが変わらないようだ。 「離さないって言うなら、離させるまでだ」 地を這うような低い声でそう宣言すると手をこちらに向けて翳して来た。 「ここでそんな物騒なモン、ぶっ飛ばしたらこいつがどうなるか分かっていての攻撃か?」 「そのままにみすみす伝に攻撃させるお前ではないだろ?それとも何か?勇者様は村人を盾にでもするってのか?」 「やるわけねえだろ。だが、こいつを離す気はねえな。守り切れば済む話だ」 「余裕だな。だが、過度な自信は身を滅ぼすってことを、お前に教えてやろう」 そう言うと、手の上に溜まった光のようなものをこちらに向けてきた。その途端にレーダーのようなモノが勇司に目掛けて放たれる。 それを勇司はオレを抱えたままひょいっと横に飛ぶ事で避ける。 勇司が避けた為に、その光の光線は魔王城の螺旋階段の手すりを木端微塵になるまで破壊した。 「ノーコンだな。そんなもの、当たるほど間抜けではねえよっ!」 勇司は片手でオレを抱えたまま、もう片方の手にいつの間にか握られた剣を振り上げる。その途端に小さな渦と化しながら鋭い気圧が祥治に目掛けて一直線に伸びていった。 こいつら、怖い! お互いを倒す事になんの躊躇も示していない。さすがに前世の幼馴染み達がやり合うのをただ黙って見ておくことは出来なかった。 笑っても泣いても最終章です。 UNION・■BL♂GARDEN■ |