猪突猛進子犬とワルツ | ナノ

今日は騒がしくがなる目覚まし時計よりも10分ほど早く目が覚めて、少し得をしたような気分で起き出した。
余裕を持って朝仕度ができるってなんて素晴らしいんだろうか、誰に対して思うわけでもないけれど独り優越感に浸りながら部屋を出ようとする。
普段からお弁当は持参、朝に滅法弱い両親は共働きで、二人のお弁当作りもついでにやってしまう私はなんて良くできた娘だろうか。誰かに褒めて欲しいくらいである、こんな朝も5、6年近く続けば慣れるのも当然のこと。

「あらーそうなの?」
「いやあ、なまえも隅に置けないな!」

はて、何やら階下が騒がしい。
普段私よりも早く起きた試しがない両親の声がする、珍しいこともあるものだ、もしかしてちょっと早めの終末でもやってくるんじゃないのだろうか。
いつもよりワントーン高い母の声が気に掛かる、誰かいるの?不信感と一緒にリビングへと向かえば、軋んだ床板の音に気付いて両親よりも先に予期せぬ来客がこちらに振り向いた。

「なまえ、はよ!」
「な、豊久!」

何故こいつがうちにいるの、ありがちで面白くもなんともないけど豊久が私を迎えに来て、家まで来たところをたまたま両親が珍しく早く起き出し、偶然窓の外を見たら豊久がいて、家に上げたってところかな!お父さんもお母さんもパジャマのままでいるのやめて恥ずかしい。

「なまえってば彼ができたのなら早く言いなさいよ、もーこんな可愛くて頼もしい彼、どこで捕まえてきたの?」
「好青年で実に謙虚、お父さん早く彼と晩酌したいくらいだよ」
「寝ぼけたこと言わないでよ、豊久はただの……」
「お義父さん、お義母さん!俺、まだ彼氏じゃなくて、候補なんです!」

勝手に彼氏認定されていることを否定しようとしたら、豊久が口を挟んだ。言ってることに間違いはないけれど、義父母呼ばわりはどうかと思う。候補とか言ってる割に彼氏になる気満々じゃないか。

「一途な年下の男の子が家まで迎えに来てくれる……青春!」
「若いっていいなあ」
「このご時世ギリアウトだと思うけどね!」

豊久に家の場所を教えたことなんて一度もない、ストーカーの文字がちらつく頭、どうやって調べたのか。まさかいくら豊久が犬っぽいとはいえ嗅覚で……なんてまさかね。

「なまえの匂いを頼りにここまで来たんだ!」
「まさかの!?」
「っていうのは嘘で、宗茂が教えてくれた!」

宗茂あの野郎、後でシメる、プライバシーのかけらもあったものではない。知られてしまったものは仕方が無いとして、これから毎朝こうしてやってくるであろうことを想像すると、ため息を通り越して出てくるものなどなにもない。
両親は手放しで喜んでいるし、おいそれと追い出すわけにもいかない。今の私にできることと言えば、早く学校へ行こうと言うくらいである。
ああ、それからお弁当作らなくちゃ、無言でキッチンに向かい、今の季節はほとんど何も掛かっていないコートラックに、ぽつんと掛けてあるエプロンをとる。

「なまえ、どうせなら豊久くんのお弁当も作ってあげたら?」
「……は?」
「3人分も4人分作るのも大差ないでしょう?豊久くんはお弁当持参かしら?」
「い、いえっ!いつも購買です!」
「丁度いいじゃない、なまえ、豊久くんの分もね」
「は、ちょ、そんな勝手に!」
「や……やったあ!」

はいはい閉口閉口、丁度いいって何。
キラキラした目をやめて欲しい、そしてお母さんとお父さんはさっさと着替えてください。良い年した大人がみっともない。
おいコラ豊久つまみ食いしないでくれるかな!


愛の挨拶、略して愛拶

20140730
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