猪突猛進子犬とワルツ | ナノ

ぎゅう、と握られた手が痛い。
こいつは手加減というものを知らないらしい、真摯な瞳は夢と希望と期待に満ち溢れているようだったけれど、申し訳ない、そこに絶望をもたらしてしまう私を許してね。

「好きだ!」
「ごめん」
「うわあああ!」

島津豊久、目の前にいる子犬のような後輩。
彼に今し方何度目かわからない告白されました、申し訳ないけれど今回も断らせて頂いた、私は年下に興味を示さない思考の人間です、ほんとにごめんね。

「なんでだ!」
「年下は許容範囲外」
「ガキ扱いかよ!」
「いや、そうじゃなくて」
「どう考えてもそうだろ!」
「うーん、ガキっていうか子犬?」
「成犬ならともかく子犬ってやっぱガキじゃないかよ!」

そういうきゃんきゃんしてるところが子犬っぽいと思うんだけどなあ、それより犬に例えられたところはスルーなんだね。

「おーなまえ、まーた弟分と喧嘩かー?」
「おいアンタ!俺は弟じゃない!なまえの彼氏候補の島津豊久だ!」
「ちょ、豊久ってばそういうことをむやみやたらに……」
「熱いねえ青春だねえ!幸せになれよなまえー」

ちなみにここは2年の教室が並ぶ廊下のど真ん中だ、クラスメイトはもちろん友達だっている、今でこそ日常と化したこのやり取りも、最初の頃はほんとに恥ずかしくて死ねると思ったくらいだ。
休み時間毎やってくる豊久は飽きもせず、めげもせずひたすらに、砕けることも厭わずに当たってくる。健気である。
元々名字で呼んでいたのに、名前で呼べとしつこくて、近頃は名前で呼ぶようになった。

「俺は諦めない!なまえが振り向くまで!」
「……一応これでも先輩なんだけど」

見当違いな返事を返し、授業開始5分前の予鈴が校内に響く、豊久は名残惜しげに私の両手を痛いくらい握り締めてから「また来る!」と言い残してバタバタ自分の教室へと走り去って行った。


お手を拝借、一曲いかが?


20140728
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