1059SS | ナノ

ソファにぐでりと身体を預けて、合成皮のシートが体温を吸収するようにじわじわ熱を持ちはじめた頃。

それはそれは氷のように冷えた手が背後から目許を覆い隠し、声も上がらないほど驚いたのと、足に掛けていたブランケットがずり落ちたのはだいたい同じくらい。


「冷たい」


だーれだなんて言葉を発することもなく、雰囲気だけ可愛くしているような小太郎の、この冷え切った手の如く、限りなく冷え切った声色を駆使して言い放ってやる。当の本人はつまらなさそうに目許から手を離して、倒れ込むようにソファへ転がり込みわたしを抱きまくらとする。


「怒ったか」


ぎゅうぎゅう、なんて可愛らしい抱きしめ方なら、今までの愚行を満面の笑顔付きで赦してやろう。しかしこの2メートルもある無駄に長身で、馬鹿力野郎の抱きしめ方がぎゅうぎゅう、ではなくぎちぎち、ときたからには約3秒ほどでギブアップを余儀なくされるのだから赦すも何もない。毎度お馴染みであり恒例でもあるのだが、いい加減にしてもらわなければいつうっかり、なんてことに発展し、ご臨終……となってはあの世でわたしはいい笑い者だ。


「苦しい」


恋人とじゃれている最中に、うっかり絞殺されていたなんてニュースになった時にはいたたまれなさ過ぎる、冗談じゃない。

が、十二分にありえそうなので、この馬鹿力野郎を力の限り押し返しているのだが、びくともせずとうとうに頭にきたから、こいつの肩をおもいっきり噛んでやったら嬉しそうに目を細めて、シたいのかと聞いてきやがった。馬鹿も休み休み言え、冗談じゃない。


「どうした」


くっきりと歯型のついた肩に、ほんの少しだけ罪悪感を感じたが、近い顔を更に近付け同じことをしようとする大馬鹿者がいたものだから、右頬にきつく握った自らの拳を力の限り叩き込んで差し上げた。緩んだ小太郎の腕から神速の如く、素早く抜け出して右頬をさする小太郎を、遠巻きにじとりと睨む。


「小太郎はわたしを絞め殺す気なわけ?」
「そうでもしなければすぐに逃げる」
「苦しいっつってんでしょ」
「うぬが逃げようとするからだろう」
(話にならない)


深い深いため息をついては、首を振り何が気に入らないのだとしつこく尋ね続けるこいつに、気に入らないの何だのという以前の問題だと答えたのだが、原因をまるでわかっていない、むしろわかろうとしないからため息を零さずにはいられない。


「わがままな奴よ」
「どっちがよ」


もういい好きにすればいいと諦め、小太郎を説得するのではなく、ひたすら与えられる息苦しさの中、どうにか息をしやすい体制を探し当てた方が効率よいということに気付き、身じろぎを数回繰り返して、落ち着いた位置で身じろぎをやめる。


「だからって服に手ぇ突っ込まないで」
「なまえが好きにしろと言っただろう」
「そこまでの意味は込めてない」
「屁理屈」
「お前が言うか」


制止を掛けてもまるで気にせず、がさごそ服の下へと手を潜らせるからには、それなりの覚悟あっての行為と見做すがよろしいだろうか。
小太郎の手が下着に到達する前に、待ったなしの新必殺技を存分に喰らわせてしんぜよう、トルネーディングアッパーを。


「ククク、今日は水色……ぐう!」
「天誅」


慨嘆的絞首刑
(少しは労って)
(十分労っていよう)
(……だーめだこりゃ)


20100425
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