1059SS | ナノ

「……おい」

教室中を一回りぐるりと見渡し、名簿と名簿順に並んだ席の配列を見比べ、途中ぽっかりと空いた席がひとつ。その席の主は欠席かなどと問う必要性はどこにもない、今朝方この目で確かと登校してきた姿を見掛けたのだから。

「……みょうじはどうした」
「け、欠席?」
「……否、今朝見掛けた」
「さ、さあ……俺ら知らないっす」

あからさまに全員が目を逸らした、あくまでシラをきるつもりらしい。ということはなまえは授業をサボり、全員が居場所を知っているが口止めされている、と。

……ふん、無駄。

生徒らがサボる場所など大概たかが知れているし、誰よりも気配に敏感であるから探すのなどいとも容易。

校内に居れば、の話だが。

名簿を閉じ、くるりと黒板に向かいチョークを取る。全員が一斉に安堵した雰囲気を背中越しに感じたが、構わず授業を開始した。平然を装うものの、内心今すぐにでも授業を放り出して探しに行きたい衝動に駆られる。頼むから保健室だけには居てくれるな。

一抹の不安と焦燥を感じながら進みの遅い時計の針を横目に睨みつけながら、教科書を手に取った。

「……服部先生機嫌悪いな」
「……そりゃあ全員がみょうじがサボりってことと居場所知ってんのにシラ切ったし」

こそこそと話す声は静まり返った教室によく響く、当人らはこちらに聞こえているなどと知る由もなく話を続けている。

「……つかなんであいつ学校来て早々にサボったんだ?」
「……さあ、理由は知ら」

ガガッ!

「うお!」
「どわあ!」
「……無駄口、慎め」

いつまでも小煩い奴らだ、チョークを2本投げ付けるとひどく動揺したふたりは無言で何度も首を縦に振る。つ、机にチョークが刺さった……!と一瞬ざわつくが、ひと睨みすることで教室内には再び静寂が訪れる。

「……次、教科書33、否、34ページ」

柄にもなく自分も動揺しているのか、ページ数を間違え板書最中にチョークを折った。軽く頭を振ってちらりと時計を確認。

あと、30分。



長かった授業がようやく終わりを告げ、脇目も振らず教室を出る。

なまえを探しに行くためだ。

一番居てほしくない場所だが、一番居る確率の高い保健室の扉を破壊し兼ねない勢いで開けると、まるで待ち構えていたかのように気色悪い薄ら笑いを浮かべた風魔がまず視界に入る。

不愉快。

「どうかしたのか、半蔵?」
「……白々しい、ヤブ保険医もどきが」
「くく、ひどい言われようよな」

この保健室にはふたつベッドが置かれ、それぞれがカーテンで仕切られるようになっている。使用中でない場合は開け放ってあるはずだが、片方のベッドはぴっちりと閉められていた。風魔を睨むが、奴は薄ら笑いを浮かべるばかり。

つかつかとベッドに歩み寄り勢いよくカーテンを開ければそこにはやはり、なまえが居た。人の気も知らずに幸せそうな眠りを貪っているようだ。

「……起きよ」
「んー、あ、半……服部先生?」

寝ぼけ眼をこちらに向けながら、なまえは言い直す。するとすかさず風魔が割り込んできた。

「なまえ、我の前では遠慮せずともよいぞ、名前で読んでやれば犬も喜ぶ」
「……風魔、貴様は黙っていろ」
「あーはい、で、半蔵先生は何しに?」
「……みょうじ、風魔の虚言に耳を傾けるな、学校ではわきまえろ」
「半蔵、うぬも強情よなあ……愛しき女の名くらい呼んでやればいいものを」
「黙っていろ!」

おもいきり睨んでやるが風魔は薄ら笑いを浮かべたまま、その間もなまえは呑気に欠伸をして再び寝入ろうとする。

が、しかしそうはさせぬ。

「……寝るな」
「んー今日だけは勘弁して」
「……何故」
「昨日完徹だったから」

もうだめ死にそう、と唸るなまえに再びすかさず風魔が口を挟む。

「昨夜なまえは半蔵に想い馳せる余りに寝付けなかった」

「……!?」
「と、もしそうであったとしたらよかったな、半蔵」
「……き、貴様!」
「なかなかレポート終わんなくて」

くだらぬ虚言に一瞬でも嬉しいと感じた自分が恨めしい、なまえの口からそれを聞けたとしたら話は別だが。

ベッドに寝転んだままのなまえの横に立っていると、きゅ、と服の裾を掴まれる。懇願するような瞳に自分の中で何かが揺らいだ。

「半蔵先生お願い、あと15分だけ」
「……」
「お願いっ」
「……全く」

仕方ないと呟けばなまえは嬉々として布団に潜り込み、それともうひとつだけお願い、と手を握られる。

しばらくこうしろと言いたいのだ。

「半蔵先生、次授業ないよね」
「……ああ」
「半蔵先生ありがと、大好き!」

こんな場面を誰かに見られたらどうする(非常に不本意だが風魔は例外だ)そんな思考もどこか遠い彼方へと吹き飛ぶほど、なまえの一言は強烈だ。

やれやれと便乗して瞼に唇を落としてやると、なまえはくすぐったそうに笑って握る手の力を少しだけ強める。

握り返して、小さく笑い返してやった。


言い忘れちゃったんですが恋人設定です
(それ大事)

20100710

← / →

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -