1059SS | ナノ

※男主

ぽかぽかと暖かく、このようにいい日柄の時を居室に篭るのはいささかもったいない、そう思って本日は一度もお姿を見かけていない直虎様を探しに出た。
日差しが本当にちょうど良く、縁側に腰掛け茶を啜ってぼんやりとしたい陽気だ。最近は直虎様も慣れない執務やら、井伊家当主としての重圧にめっきり押し潰されているご様子、きっと塞ぎ込んでいらっしゃるだろう。
だから僕がここにいる、少しでも負担を減らして差し上げるために相談役として。
直虎様の居室の前に着いて、声を掛けようとすると、中からはくすんくすんと鼻を啜る音がする。

「直虎様、なまえにございます、失礼致しますよ」
「えっ、あ、待って、今は……!」

ハッと息を飲んだらしい直虎様の涙声、その制止を無視して襖を開けた。部屋の隅で膝を抱えた直虎様が、慌てて背中を見せる。そこらの女子よりも一回りほど大柄な彼女がこれでもかと身を縮めていた、女子にしては抜きん出ている長身を気にされているらしいが、ご自身で思われているほど気にする必要はないと思う、あくまで僕は、だが。

「どうなされたんですか?僕でよければ聞きますよ、どうかお話しください」
「大丈夫、あの、そんなに大したことじゃ……」
「大したことがないのに涙を零されるんですか?」
「う……」

うずくまる直虎様の傍らに膝を付いて、そっと肩に手を置く。同時に跳ねた肩越しに、恐る恐る直虎様がこちらに視線を寄越しながら僅かにしゃくりあげた。随分と長い時間泣いていたらしく、赤くなった目の周りがおいたわしい。
肩に置いた手をそのまま滑らせ、後ろから抱き込むようにすれば、直虎様は身を強張らせて何かもぐもぐと言い淀んでいる。

「僕に話せないようなことですか?」
「ほ、ほんとに、些細なことだし、私如きが」
「直虎様はもっと自身を持っていいんです、智は……まあアレですが勇猛果敢なお姿は実に立派です」
「でも、やっぱり私は女だし」

確かに女子の当主は珍しい、滅多にない例だが前例がないわけではない、例えば立花、あそこも当主は女子だったはず。例え女子であろうとも、 誇りと威厳を持って自信に満ち溢れていた。
時折傲慢に見えてしまうことも少なくない、さすがに直虎様もあそこまで威風堂々となさらなくてもいいと思うが、ほんの少し見習って頂けたら僕はとても嬉しい。
直虎様はご自身が思い込んでいらっしゃるほど弱くも、ダメなわけでもございません。ご自身を認めてあげる勇気がほんの少し足りないだけなのです。

「直虎様、いつ如何なる時も僕がおそばにいます、あなたをお守りしてお支えします、ですからこんなふうにお独りで抱え込まないで」
「なまえ……」
「もっと家臣や僕を頼ってください、甘えてください」

直虎様、あなたは笑っていた方がずっとずっと素敵です。

20140623
20200421修正
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