1059SS | ナノ

梅雨入りもまだまだ先の春麗かな過ごしやすい今日この頃。

さて、我が校ではもうすぐ文化祭が始まる時期である、随分と早い時期にやる理由としては、主に文化祭の前夜祭的な位置にある体育祭が関係している。
大都会に所在を置く我が校は、それなりに広い敷地の中に校舎がある、しかし人口の多い都会はそれでなくとも敷地に限界があるため、グラウンドは本当に申し訳程度。
つまり全校生徒が参加するためには校内のグラウンドでは用が足りなさ過ぎる、そのためにこの近辺の学校のほとんどが国で経営するグラウンドを借りて体育祭を行うのである。
つまるところ、文化祭体育祭の時期になればグラウンドの争奪戦になるため、早い時期にやってしまった方が不毛な争いをせずに済むというわけなのだ。

「だから何故俺なのだ、いやだと言っている!」
「だって石田さ、文武両道なんだろ?」
「誰がそんなことを言った、人には得手不得手というものがあるのだよ!」
「女子にきゃーきゃーされていいじゃん、やっとけよ」
「知るかそんなもの、煩わしい」

そして小さくはあるが、不毛な争いはこの教室内でも起こっているのである。
男子数名対石田三成君、彼らの言い合う内容は、全校クラス対抗リレーに誰が出るかというもの。
普段から何をやっても女子諸君から、黄色い悲鳴の上がる石田君を気に入らない男子諸君、頭はすごくいいけれど、運動が苦手らしい石田君をリレーに出させて、恥をかかせてやろうという魂胆である。
すでにその時点で男子諸君の卑しい面が公になっているわけで、女子諸君は全員石田君擁護に徹している……はずなんだけど。

「ちょっと男子さ、ひどくない?石田君いやがってるし」
「じゃあ何だよ、お前らの誰かが石田の代わりに走ってくれんの?強敵しかいない他のクラスの代表を相手に」
「……」

いつもなら、石田君をちょっとでもバカにしようものならば、般若の如く男子諸君を皆殺しにしかねない勢いでぶっ込む女子諸君。今回はいささかいつもの元気が行方不明。
それもそのはず、全校クラス対抗リレーは男女混合、というより足に自信があれば男女関係なく出ることができるシステムになっている。ちなみに今争っているのはアンカー役だ、リレーの大トリ、うちのクラスは言うまでもなく頭脳派集団のため、大半が運動はちょっと……である。
確実にビリ、わかりきった結果を前にわざわざ恥をかきに行きたい物好きがいるはずもなく、石田君擁護に徹したくてもできない女子諸君と、石田君に恥をかかせたい男子諸君、面倒を是が非でも避けたい石田君自身、問題は一向に解決しないままだ。

そんな中、私はというと傍観のスタンスを貫き通し空気と化している。この学校は幼稚園から大学までエスカレーターになっていて大半が持ち上がり組、私は家の事情で高等部から編入組だ。
だからそれほどいろいろなことにグイグイ突っ込めるほど、無遠慮には踏み込めない、まあ元々グイグイ行くようなタチでもないし。一進も一退もしないこの言い争い、誰かが妥協しなければきっと一生終わらない。走るのが、持ち上がり組の人ならきっと野次がたくさん飛ぶだろうし、気心も知れてるから散々からかわれると思う。

持ち上がり組以外ならどうだろう、空気のまま空気のように走れば例えビリでも誰も気にしない、何事もなかったかのように「そういえばリレーの優勝はあいつだったけどビリは誰だっけ?」「あー知らん忘れた」きっとこうなる。つまり編入組の私。
そうなれば恥も何もなくなる、どうだろうか。

「え、みょうじ?」
「ダメ、かな」

グイグイ突っ込めるタチではないけれど、と思いつつ、恐る恐る会話に紛れ込んで提案した私は勇者、影の勇者!クラス全員の視線が一斉にこちらに向いていささか居心地が悪い。驚きに目を見開いた石田君と視線が絡んで、なんだかもっと居心地が悪くなった。
え、いいの?みたいな表情のクラスメイト達、結局は誰かがやんなきゃいけないわけだし、その誰かがたまたま私だったってだけだ。

「じゃあ、悪いけどみょうじに頼むってことで」

なんやかんやで即決したリレーのメンバー、わりとみんな遠慮というものを知らないらしい。クラスの委員長がメンバー表を生徒会に提出しに行って、今日のところはお開きになった。

「おい」
「うん?」

やれやれ終わった終わった、帰り支度をして教室を出ようとしたら、石田君に呼び止められた。

「奇特な奴だな、わざわざ何故あんな面倒なものを引き受けたのだ」
「何故って言われても、とりあえず早く帰りたいなあって思ってたし、みんな本気でやりたくなさそうだったから」
「みょうじこそ本意ではないはずだろう」
「そりゃあそうだけど……でも、クラスのためとか石田君を庇いたいなんて思ってないよ」

全部本心だ、本当に本当の理由はちょっと恥ずかしいから内緒にしたい、編入組の私だから、もう少し持ち上がり組のみんなと和気藹々とできたらいいなって、そう思ってた。
みんなとの距離がちょっとでも縮めばいいかなって。

「あっ、もしかして石田君は言われたかったとか?」
「……は?」
「私石田君のために走る!とか」
「ば、馬鹿か!」
「うそうそ冗談」

いつも女子にきゃあきゃあ言われてるからてっきり「くだらぬな」なんて言うと思ったんだけど、石田君の反応は私の想像の斜め上をいっていた。
言い方はアレだけど女子慣れっていうか、ちやほやされても「ああ、またか」くらいにあしらわれると思ってたのに。ちょっと困ったように感情を剥き出しにする石田君が物珍しくて少しだけ噴き出してしまった。

「からかっているのか」
「や、違う違う、ごめんね、ほら石田君って女子からすっごい人気あるし、女性慣れしてそうだったから、きっと色目使っても……あーうんごめん失言、下卑た目であしらわれるんだろうなって思って、ねえ?」
「お前は俺をなんだと……」

深々とため息をついた石田君、俯き加減になった顔に、女の子も羨む綺麗な髪がさらりと揺れる。ほんと整った顔にしてるんだなあ、こんなこと口にしたらきっと怒るだろうけど、でも美人って得だよね、不機嫌そうな表情でも絵になるんだもん。

「だが」
「うん?」
「……」

ぽつ、と小さく零した石田君を見つめた、視線は斜め下に下げたままだ。

「礼は……その、言っておく」
「……うん?」
「か、勘違いはするな、別に俺は、その、運動が得意でないからであって気を遣わせたことに礼を言っただけでだな!」

早口で声を荒げた石田君に気圧され、驚きながらもとりあえずは首を縦に振っておいた、言うだけ言って石田君はすぐに踵を返すと教室を出ていってしまった。残された私はというと呆然としたまま石田君が出ていった教室の入り口を見つめている。

生ツンデレ初めて見たよ!

20140414
20200421修正
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