1059SS | ナノ

開戦間近だというのにあの馬鹿は一体どこへ行ったのだ、愛用の扇をバチンと音を立てて閉じると、周囲に控えていた兵らがびくりと震えていた。
それすらも癪に触るのだから俺は相当苛ついている、あの馬鹿を左近に探させてはいるが戻ってくる気配がまるでない。この苛立ちをどうしてくれるのだ、戻ってきたらまずは無双奥義決定だな。

「いやあ参った参った、すいませんねえ、遅くなっちまいまして」
「全くだ、募りに募った苛立ちにすら苛々している」
「ちょこまか逃げられるもんで、なかなか捕まえるのに苦労しましたよ」
「まあ良い、手綱でも付けておくことにする、手間を掛けたな」

ようやく戻ってきた左近、手ぬぐいを猿ぐつわ代わりに噛まされ、目一杯の縄に巻かれあの馬鹿……なまえは左近に担がれていた。こいつは俺の護衛だ、それだというのに突然姿をくらまし開戦間近になっても戻ってこないという暴挙に出た。何を考えているのだこの馬鹿が。

もがもがと必死で身動ぎ藻掻くなまえ、その足りてなさそうな頭を扇でおもいきりはたいてやればすぐに大人しくなった。

「じゃ俺は先発ですんでお先に失礼しますよっと」
「ああ」

なまえを降ろすと左近は自分の部隊を引き連れ陣から出て行った、苛立ちを包み隠さず、もう一度頭をはたいてから口元の手ぬぐいをはずす。

「貴様今まで何をしていた」
「……」
「いらぬ手間を掛けさせておいて黙りか」
「ちょ、ぎゃあ痛い!三成様痛いいたたた!扇の角めっちゃ痛い!抉れる、抉れてる!」
「何をしていたのかと聞いている」
「えーっと……」

むう、と膨れっ面をするなまえにもう一発お見舞いしてやろうと扇を振り上げればなまえは慌てて「ごめんなさいごめんなさい!」と口を開いた。更に腹立たしいことに、こいつはさっきから俺の方を見ようともしないから、顔を掴んで無理矢理にでもこちらを向かせる。
しかし目だけは器用にあさっての方向を向いている、解せぬ。

「護衛のお前がいなくてどうする!俺を野たれ死にさせる気か!」
「ち、違!だって三成様が野たれ死にする前に私が死んじゃう!」
「はあ?」

言っていることがまるでわからん、馬鹿の考えていることは全くもって理解不能だ。藻掻いていつの間にか緩んだ縄から抜け出しながらなまえは俯いて、一瞬こちらに視線を向けるとすぐにまた俯いた。

「はっきりしろ、何が言いたい」
「三成様の、その」
「俺の、なんだ」

そういえば最近鎧兜を全て新調した、どこかおかしいとでも言いたいのかこいつは。おかしさで言うならば正則だろう、好きに斬ってくれと言わんばかりのあれの方がおかしい、元々頭がおかしい奴だから仕方のないことだが。

奴に比ぶべくもなく俺は普通だ、おかしいところなどあるはずもな……。

「新しい鎧兜の三成様は素敵すぎるんです!」
「……は?」

おもいきったように叫びだしたなまえの顔は真っ赤だった、言われていることが理解できずに呆気にとられる。

「そそそそのチラ見せの鎖骨にしろ腕を振り上げた時の脇腹に眩暈がします!いつになく(性的に)攻撃的な三成様の近くにいたら私が持ちません!悶死してしまいます、でもそれも本望かもですご馳走様です!」
「な、おま、何を言っている!馬鹿が!お前なんか死んでも構わん!馬鹿が!」
「はい!喜んで!」
「い、いや違う!ほ、本当に死んでも構わないわけでは……!」
「三成様のチラ見せ鎖骨で悶死、もう悔いはありません、ああ素晴らしき人生」
「ふ、ふざけるななまえ!ええいくそっ、なんなんだ全く!おい吉継、見ていないでなんとかしろ!左近お前先発で行ったんじゃなかったのか!何をニヤニヤしている!不愉快だ!」
「怒った三成様も素敵……鎖骨おいしい……」
「ひっ!?やめろ馬鹿が!さ、鎖骨を舐めるな痴れ者!」

……以前使っていた鎧兜に戻そうかと本気で考えることにした。

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三成の鎖骨と脇腹にうっかり。
20140414
20200421修正
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