1059SS | ナノ

縁側で庭を眺めていた景勝様に、気まぐれにいいお天気ですねと声を掛けたら、少し驚いたような顔をされた。でもすぐにいつもの厳めしい顔つきに戻って、僅かな間があってから「……どうだ?」と何故かお饅頭をくださった。
断る理由もないし、美味しそうだったので遠慮なく頂くことにした。お隣に失礼して腰掛けお饅頭を頬張った、とっても美味しい。しあわせ。

「景勝様」
「む」
「美味しいです」
「そうか」
「ありがとうございます」
「……うむ」

景勝様って案外優しい、みんなが言うほど……まあ顔は怖いこの上ないけど。私は結構好き、取り繕ったり何か気を遣ってご機嫌を取ろうとしなくてもいいっていう雰囲気が、好きだ。

「今、いい風が吹きましたね」
「……うむ」

ふと思ったことをポツンと言うだけ、静かで緩やかで居心地がいい。でも、そんな和やかな雰囲気は長くは続かない、兼続の介入によって全てがぶち壊される。



おしゃべりの過ぎるぼってりしたその唇を今すぐ縫い付けてやりたい、ぶすりぐさりと、あのぼってりした唇に針を突き刺す想像をして、いくらか気分が晴れたような気がした。
1聞くと10にも20にもして返ってくる応答に、嫌気どころかうんざり辟易している最中だ。聞かなくとも、むしろ何も話し掛けなくたって、自分から勝手に話題を振りまいてそれに自分で論じて驚嘆して納得する。
それはこちらが全く聞いていなくてもお構いなしに続けられているのである、自問自答に近いと思う。
更にはその中に必ず「愛」と「義」をこれでもかと絡めて、くどいほどに語り抜く。

はっきり一言で言おう。うるさい。

「うるさいだと!?愛に満ち義に溢れたこの語らいをうるさいと!なんたる不義!見よ!景勝様もそなたの物言いに心を痛めておいでだぞ!このように憂い顔をなされている!」
「……」
「満ち満ち義い義いうるさいからげんなりしてるんだよ!察せよ!」
「何を言う!なまえ、私を仲間外れにしようとしているのだろう!だがそうはいかない!」
「どういう解釈だよ疲れる!」
「兼続……」
「おお、景勝様もやはり仲間外れなどという不義は許せぬと!さすが景勝様!お優しゅうございますな!」

景勝様まだ何も言ってないし!むしろ仲間外れにしてるのは兼続、お前な!景勝様が言いかけたところを遮って乱入してくるのやめようね!
ああもうほんとこいつうるさい、こっちは緩やかにまったり過ごしたいっていうのに……。
全然自重しない兼続の暴走に、憎たらしい減らず口をいい加減本気で縫い付けたい、黙れ黙れと念じても届かないこの思い。
仕方がない、奥の手だ。

「ああもう!なんでわかんないかなあ」
「む?」
「そうやって察しが悪いからいつまで経ってもお嫁さん貰えないんだよ兼続は!」
「な、ななな!ひどいぞ!そしてどういう意味だ!」
「ひどいのは兼続でしょ、私は景勝様と二人っきりでゆっくり過ごしたいのに……私の淡い恋心を潰したいの?馬鹿なの?それこそ不義でしょ」

別に本気で景勝様と二人っきりになりたいわけではない、なったらなったで静かになるからそのための方便だ。それに景勝様は女性が苦手だって聞くし、私のことなんてその辺の石ころ、くらいのあれだ、うん。

「なんたること!それはすまぬことをした!なまえが景勝様を慕っていたとは露知らず!愛溢れる二人の刻を邪魔してしまっていたとは直江兼続一生の不覚!」
「そうだそうだ!」
「すまぬななまえ!そうとは知らず、私のこの滾り溢るる愛と義に免じて非礼を許してくれ!」
「兼続の愛も義もくそくらえだけどいいよ、許してあげる」
「そうか!ありがたい!では私は失礼しよう!」

おうおう帰れ帰れ、内心しめしめうまく行ったぞ、とにやついた。小煩いのがいなくなってせいせいする、ついでに私もお暇しちゃおうかな、と思った矢先にものすごい力で手首を掴まれた、痛い折れる!
言わずもがなそこにいるのは景勝様しかいないわけで、振り向くとうっすら頬を朱に染めた景勝様がいて。

「……」
「か、景勝様?」
「……」
「あ、あの、どうかしました?」
「……先程の」
「え?」
「……わしを、その、し、慕っている、と」
「え?」

にやにやが引っ込んだ。掴まれてる手首は未だに痛い、むしろさっきより痛いほんとに折れるかもしれない。

「……」
「か、げかつ様……?」
「……わしは、うれしい」

やっぱり兼続を追っ払うべきじゃなかった気がする、景勝様って女性苦手なんじゃないの?なんか私が告白して景勝様がウフフいいよ!みたいな雰囲気になってるよねこれ。
遠くで兼続の声が聞こえる。

謙信公ォ!綾殿ォ!祝言はいつになされますか!明日?いや、すぐ?すぐにですな!この兼続にお任せを!

これはやばい。

オチなどない。
20140408
20200421修正
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