1059SS | ナノ

大きくて明るくて優しく包み込んでくれるような月の光の夜だった。今日は一日が随分と長かったような気がする、ずくりともずきりとも付かない頭の痛みに小さく呻きながら月を仰ぐ。

昨日の戦はようやった!戦に勝った後祝いじゃ!さあさ飲めや歌えや無礼講じゃー!

人を集め、全ての仕事を休ませ秀吉様が声を張った。大きな戦の後、豊臣にとって防衛するには最高の拠点を取り、ほとんどの憂いを払った。あの三成ですら仕事を忘れて秀吉様の傍らで潰れていた、いやあいつの場合は潰されたと言った方が表現的には正しいだろう。

正則はその後ろでどじょうすくいを披露している、清正は城造りのなんたるかを柱に向かって説いているし、ある意味では地獄絵図。絡まれるのも面倒だし、私自身も少しばかり飲み過ぎたようで頭が痛い。

そんなこんなで宴会をそっと抜け出し天守近くの屋根へと上がり、ぼうっと月を見上げていた。

「ここにいたのか」
「ああ、吉継」
「探したぞ」

明るい月夜だ、柔らかい月の光が隣に腰かけた吉継の綺麗な髪を彩る。全体的に装束が白いせいか今にも消え入りそうな気さえした。

「……なまえ?」
「あ、ごめん」

無意識のうちに服を掴んでしまった、不思議そうにこちらを見る吉継はぱちくりと瞬きを繰り返す。

「なんか……吉継が消えちゃいそうな気がして」
「俺はどこにも行かない、むしろお前が離れていかないかが心配だ」
「それこそ心配無用だって」

ふふ、と笑った吉継に右手を絡め取られ珍しく強めに引き寄せられた。ほんのりお酒の香りがする、飲み過ぎて酔い覚ましにきたんだろう。

「やけに強引だと思ったら随分飲んでるみたいだね」
「秀吉様の流れには逆らえんだろう、前後不覚の心配はない」
「ちょっと、変なとこ触っ」
「普段の俺は意気地がない、酒に頼るのは不本意だが……少し許せ」
「よ、吉継っ」

着物の隙間から熱を帯びて手が身体中を這う、宴の喧騒は遠いがいつ誰に見られるかもわからない。ギリギリ押し留めつつ吉継の好きにさせている私は随分と甘い、少しだけ、あと少しだけ吉継の吐息を間近で感じていたい。
本音はまだ言ってやらない。

20170204
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