1059SS | ナノ

間違いなく引く。

その一言に私の淡い期待となけなしの勇気は消えてなくなったのは言うまでもない。


「いまどき手編みのマフラーなんてはやらないと思う、それに重い、どれだけ彼が優しい人でも手作りで許されるのって料理くらいじゃない?」
「で、でもさほら!海外って手編みのセーターとか作るよね?」
「それは海外の話でしょう?ここどこだと思ってんの?日本よ日本、規格外れでエキセントリックな海の向こうと比べるなんて脳もないことしなさんな」
「……うぐ、ごもっとも」


私の片想い(約2年ほど)が奇跡的に報われ、高虎くんと付き合い始めてそろそろ半年という頃。さりげなく記念にと思って寒さの厳しいこの時期にマフラーを贈ろうと思い立った。ストールが好きな高虎くんだからきっとマフラーも、と一生懸命編んだそれはなかなかいい仕上がりとなっている。
完成してから数日、いつ渡そうかとタイミングを見計らって数日、なかなか渡すことができなくて、しまいには付き合い始めて半年記念だなんて重たいやつだなんて思われたらちょっと寂しいかも……と考え出したら一気に気持ちが萎んでいった。渡せる気がしない。

そこで友人に相談したところ、見事撃沈した次第である。やっぱり重いのかなあ。無難にお菓子作って渡そうか、いやでも高虎くんの好物ってお饅頭……作れる気がしない。


「……つらい」
「藤堂くんってさ、すっごいクールなイメージあるし手編みのマフラーなんて恥ずかしいとかサラッと言っちゃいそう、っていうか私あんまりしゃべったことないからわかんないけど口悪そー、大丈夫?なまえいじめられてないよね?むしろ遊ばれてない?」
「ちょ、ちょっとちょっと!変な高虎くんイメージを作らないでよ!高虎くんそんな人じゃないから!優しい人だもん」
「でもマフラー渡すの怖いんでしょ?どういう反応されるか予想がつかなくて」
「う……まあ、そうなんだけど」


痛いところを刺しまくる友人にぐうの音も出ない。出るのはため息くらいだ、はあ。こうなったら無難にお饅頭買って一緒に食べよ?って誘った方がまあるく収まるのかも。心残りはあるけれど、仕方がない。


「ちょっとお高めのお饅頭買って帰ることにするよ……」
「ま、がんばって、一か八かで渡してみるのも面白いかもね」
「そうやってまた人をおちょくって!」
「やっぱり渡してみたら?うん、絶対面白い」
「他人事だからってこのやろう!」
「渡すとは、誰にだ?」
「おやまあナイスタイミングで藤堂くんではないですかー」
「ああ、なまえを借りていくがいいか?」
「ええどうぞどうぞ、じゃあなまえ、がんばって」
「ちょ、ちょっと!」


さぞ面白いと言わんばかりに、にたりくたりしながら友人は脱兎の如く去っていく。面白いもくそもない、こんなのってひどすぎる。高虎くんにエサを置いていくなんて!私にとってバッドタイミングでやってきてくれた高虎くんは、仕事の書類を私にくれながら「ところで、さっきの話だが聞いても差し支えないか?」突っ込んできた。

言いにくい、非常に言いにくい。引かれるぞとこれだけ脅されて軽々口を開けるほど私は強い子ではない。
だがしかし、自分が好きになった人を信じられないというのもおかしな話、一生懸命作ったものに対して物申すような高虎くんでないことくらいわかっている。物言いがキツいこともたまにはあるけれど、優しくて温かい。だから好きになったのだ、彼のことを。


「おい、誰かに何かをやるのか?誰にだ?」


珍しくじろりと睨まれ、若干語尾がキツい。私が高虎くんではない誰かに物をあげると勘違いしているようだ、慌てて否定しても腑に落ちない様子だったので、仕方なしにことのあらましを口にする。


「た、高虎くんお饅頭好きだよね?」
「ああ、それがどうした」
「今日帰りに買おうかなって思ってて、一緒にどうかなって」


ちらちら様子を窺いながら言えば高虎くんはふと表情を緩めて一緒に行こうと言ってくれた。


「で?」
「で、って?」
「饅頭じゃなかっただろう、さっきの話題は」
「え、っと」


バレてる。お饅頭で気はそらせてもほんの一瞬だけのことで、結局振り出しに戻ってきた。


「高虎くんはストール好きだよね」
「ああ」
「じゃあマフラーとかって、どう、かな?」
「好きだな、基本首に巻けるのであれば割と好きだ」
「さ、最近冷え込む日が多い、から、ちょっとした出来心というか、その、マフラー……作ってみたんだ、けど」


高虎くんの迫力に負け、情けない語尾になりながらも言いきった、鞄から編んだマフラーを入れた袋を取り出して「これ、なんだけど」高虎くんに見せる。
切れ長の目を大きく見開いて何度も何度も俺にか?と聞き返してくる高虎くん、それに何度も頷けば彼はもうマフラーを首に巻きだした。


「高虎くん!?退社時間まだだよ!」
「いい、気に入ったからずっと巻いておくことにする」
「待って待って恥ずかしいから!」
「何故だ、いい出来じゃないか俺は嬉しい」
「あ……ありがとう」


くしゃくしゃと頭を撫でられてマフラーも気に入ってみらえてもう何も言うことはない、あんなに心配していたのが杞憂に終わってよかった。高虎くんが喜んでくれて私も嬉しい。

しかしその後、仕事中もマフラー姿だったという高虎は散々同僚にリア充爆破せよ!と呪いの言葉を浴びせられ続けたとかそうじゃないとか。

20170204
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