1059SS | ナノ

私への想いを綴ったのだと渡されたのは、どえらい量の紙の束だった。冗談にしては笑えない量のそれを見て、思わず一歩引きそうになったのだけれど、そこはどうにかこうにかこらえることに成功した。


「君のことを想っていたらそれを綴らなきゃ、って衝動に駆られてね、すごい数になってしまったよ、会いたかったっていうのもあるし直接渡そうと思って車を飛ばしてきたら、偶然丁度いいタイミングで君を見つけて、ありきたりな言葉で申し訳ないんだけど、いやあやっぱり運命ってあるんだね!」
「はあ……」


どさりと手渡されたのは文庫本一冊文以上はありそうな厚さの便箋、普通に売っている便箋を何冊使ったんだろう。まじまじとそれを見ていれば、目の前でやんわり微笑む元就さんは「便箋は10冊くらい使っちゃったかなあ」とこともなげに言い放った。
よくもまあそんなに書くことがありましたね、とはさすがに嫌味っぽいと思って口にはできなかった。せっかく書いてくれたんだもの、私のためなんだし読まなきゃ失礼だよね、ちょっと億劫だなあと思ってしまったことは内緒である。

元就さんが運命って言葉を口にしたことにもびっくりだったけれど、それよりもたまたま出先でばったり会ったことの方がびっくりだった。私GPSか何かのチップを埋め込まれてるんじゃないかな、なんて勘繰ってしまうくらい驚いている。今日はたまたま何となく取った有給で、家でのんびりしようとしてたけれど急に美味しいものが食べたくなったからふらっと出かけたのだ。

本当に気まぐれで、こんなふうに出かけることなんて滅多にないわけだから行動を読まれるなんてこともないはずなんだけど……きっと元就さんの言うように偶然なんだろう。運命かどうかについては触れないでおくことにする。


「……ええと」
「うん?どうかしたかい?」


どうしたもこうしたも。
元就さんは去る気配を全く見せず、私が何気なく帰ろうとして、足を一歩踏み出しそうなそぶりに続こうとしている。それを咄嗟に感じ取ってちらりと元就さんを見つめてみた、特別意味はない。
控えめに微笑む彼になんとなく圧力を掛けられている気がしてならないのだ、まるで「手紙、いつ読むんだい?今だよね?」そう言われているような。


「……元就さん、よかったらうちでお茶でも」
「え!いいのかい?いやあ、悪いなあ!」
「むりにとは言い」
「せっかくだし断るのもかえって悪いよね、じゃあお言葉に甘えて」


そしてこの即答具合、私が最後まで言う前に被せてくるくるところがなんとも、まあ。じゃあ行こうかってさりげなくエスコートよろしく手を引いてくれて、こんなにも嬉しそうな元就さんを見てしまったら結局仕方ないなあってなっちゃう私も私だ、ってお話。

20151031
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