1059SS | ナノ

一緒の時間を共有して、同じような生き方をしてきたはずなのに、いつの間にか全然知らない人のように思えて、一番身近に感じていたはずの彼が、今はとても遠く感じた。同じだけの場数を踏んできたはずの戦も、助けられることが数多くなった気がする。

力比べは到底叶うはずもなかったが、ついこの前までは駆けっこだって、わたしの方が速かった。彼が力技でわたしが駿足、二人で組んで百人力。それがどうだ、今となっては駿足も敵わない。

男女の差がこれほどまでにも大きいものだったなんて。このままではわたしが足枷になってしまうのでは。独り思い悩み、いつしかわたしは自然と彼を避けるようになっていた。

「後方支援?どうしたんだい、また」
「最近清正には助けられてばかり、彼が最前線で思う通りに動けるよう務めたくて、今度はわたしが」
「助ける番、かい?」
「はい」

並べた言葉が建前だと気付かれないよう、慎重に言葉を選びながらおねね様に申し出た。

助けられていることは事実無根、だがそのあとは決して本心ではない、本当なら清正の傍にいたい。一緒に戦っていたい。

しかし助けられている時点でわたしは足手まとい、敵を圧倒しながら自分の身も護り、尚且つわたしの心配まで。例え彼がそれを苦にしていなかったとしても、わたしにはとてもじゃないが耐えられなかった。

「清正には話したの?」
「えぇ、それとなく」
「うーん、なまえがそれを望むなら仕方がないけどねえ……」

面と向かって話したことはない、冗談めかして言ったことは何度もあった。清正自身本気にはしていないだろうし、きっともう忘れている。

それにしばらく避けているのだ、最後に会話らしい会話をしたのはいつだったか。結構な日数が経っているはず。

それから、次の戦を機に後方支援を進んで任されようと考えている、最前線よりは恩賞も功績も格段に落ちるが、清正の足手まといになるくらいなら、そんなものいらない。

「清正となまえの特攻が見られなくなるのは残念だねえ」

ま、なまえはなまえで頑張っているわけだし、きっと清正もこんなに思ってもらえて幸せだろうよ。後方は任せようか、とおねね様の言葉に深く感謝しながら頭を垂れた。

失礼しました、とおねね様の部屋を出て渡り廊下を自室に向かって歩く。そこへ間が悪いことに、清正がやってきた。すぐさま踵を返し反対方向へ、この際あからさまだとかなど、どうでもいい。

あんなにも近くにいたのに、一番気心の知れた人なのに、今はどんな顔をして会えばいいのかわからない。

「待てなまえ」
「……っ」
「待てよ」

すぐに追い付かれ、腕を引かれる。諦めて立ち止まるが清正を見ることが出来ない。そんなふうになってしまったのも、全部自分が悪いのだ。

「話がある」
「わたしは、ないよ」
「なまえはなくとも、俺はある」
「……」
「なんで俺に黙って後方支援に回るんだ」

単刀直入過ぎる、思わず顔を上げれば難しい顔をした清正。馬鹿だけど、変なところで鋭いから避けてきた理由もばれているかもしれない。わたしが逃げないように腕をしっかりと掴んだまま、問い掛けてくる。振り払う気力も起きなかった。

しかしどうしてさっきおねね様に話したばかりのことを知っているのか、聞けば正則が立ち聞きをしていたようで、すぐに清正へと伝えたらしい。

あのおしゃべりめ。

「ずっと一緒に戦ってきた、だから何となくはわかる、男女で差がつくのは当たり前のことだろ」
「わかってる……わかってる、けど」
「なら何故」

清正の重しになるのがわたしにはどうしても辛いのだ、そのせいでいつか清正の身に何かあったとしたら悔やんでも悔やみきれない。

「だから、清正が前線でより集中出来るように、わたしが後方で頑張るから」
「……なら聞く、その後方でなまえにもしものことがあったら俺はどうしたらいい」
「清正の足を引っ張るよりはマシだよ」
「っ!馬鹿野郎っ!」

声を荒げられ思わずびくり、と肩が震えた。こんなふうに怒鳴られたのは初めてだったから。それと同時に掴まれていた腕が引かれ、全身に清正の温もり。

「男の俺が強いのはな、惚れた女を全力で護るためだからだ」
「き、よまさ?」
「俺がどれだけ苦労してなまえよりも強く、速くなったと思ってんだ、お前は俺と一緒に前線にいて、適当に戦って俺に護られてればいいんだよ!」
「どうして、そこまでするの?足手まといのわたしなんか」
「お前が傍にいるから頑張れる、少しは気付け馬鹿」

廊下のど真ん中だというのに、人目も憚らずきつく抱きしめてくる清正の必死さがひしひしと伝わる。

人のこと馬鹿馬鹿言うけれど、わたしみたいなのに惚れたとか、傍にいろと言う清正なんかもっと大馬鹿者だ。久方ぶりに感じた温かさに、胸に渦巻いていた重圧が、抜けていく。

「傍に、いていいの?」
「当たり前だ、馬鹿」


灯台暗し
(こんなにも近くに居たのに、どうして気付けなかったんだろう)

20100205
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