「あたし、清正好きだなぁ」
正則からお菓子貰ったからと(もとい奪ってきたとも言う)なまえが一緒に茶でもとやって来た。和やかになってきた雰囲気、しかも嬉しいことに煩い馬鹿共もおらず、ふたりきり。そんな中なまえは急に好きだと口走る。
気になっているやつにいきなりそんなことを言われたら、誰だって動揺するに決まってるだろ、なんて返したらいいのかわからず俺は馬鹿みたいに口を開けたままなまえを見つめていた。
言い出した当の本人は、さして気にしたふうもなく俺……ではなくて俺の左腕に釘付けだ。
……腕?
「なまえ?」
「うーん、やっぱり好き!清正の腕!」
きゅ、と腕にしがみつくなまえにどぎまぎするものの、俺自身が好きというわけではないのか、と少しの落胆を感じざるを得なかった。
そうか腕か、俺じゃなくて腕か。
「腕ってお前」
「だってね、三成は細いし正則はなーんかちょっと違うんだよね、丁度いいの清正は」
自分の身体の部位ではあるが、複雑だ。
なまえは俺が振り払わないのをいいことに(まあそんなことするはずもないが)未だくっついたまま、俺ばかりが動揺しているのはおもしろくない。
そんななまえにささやかな悪戯心が芽生えてくる、何の気無しにくっついてくるくらいだ。冗談まじりに押し倒したとしても、ふざけるなと笑い飛ばすだろう。
一瞬でも驚いた表情になればおもしろい、そんな軽い気持ちのもと俺は素早く身を翻してなまえの肩を押しやった。いとも簡単に仰向けに倒れたなまえの鼻先まで近付けば、ひどく驚いた様子で固まっている。これは意外にも効果があったのか、いい気になって俺はからかうつもりで耳元へ唇を寄せた。
「お前……誘ってんのか?」
「……っ!?」
びく、と肩を震わせる様につい笑みが零れる。まあ、いつもの調子で「馬っ鹿じゃないのー」だとか「はいはい調子に乗らないのー」なんて言葉が今に飛び出すはずだろうがな。
「……そうだよ」
しかしなまえの口からは予期せぬ言葉が紡ぎ出され、つい零れた笑みが一瞬にして引っ込んだ。
何が起きた?
余裕なのだとばかり思っていたなまえは俺の下で真っ赤になった顔を見られまいとしているのか、ふいと横を向く。
「誘ってみたの、わかんなかった?」
「……お前変なもんでも食ったのか?」
「ばかきよ、にぶちん」
今度は俺が驚く番。
まさか冗談半分で言ったことが、そんな。無意識に口元を押さえ、突然の告白に自分で言ったことしたことが急に恥ずかしくなり、慌ててなまえを押し倒していた体勢から上体を起こした。
何してんだ俺、なまえに背を向けがしがしと頭をかく。そこへ背中から回された細い腕が延び、少し高めの体温がじんわりと伝わってくる。
「清正、さっきのほんと?」
「本気だ……と言ったら?」
ぎゅう、と背中にしがみつく力が強まり不安そうな声色で尋ねられ、心臓が大きく跳ねた。
「嬉しいよって返す」
「じゃあ本気だ」
「……」
「……」
互いに気持ちは通じていたらしい、ただこんな形で通じ合うことになろうとは夢にも思っていなかったわけで。
なんて声を掛けたらいいのかわからず黙り込むと、なまえも同じく黙り込む。気まずい沈黙がしばらく続くが、嫌な気まずさではない。
もはや言わなくともわかってる、お互い次に言わなければならないことはひとつだけ、ただ何となくもう少し、幸せな気まずい沈黙を味わっていたかった。もう少し、もう少しだけこのままで。
「なあ清正ぁ!聞いてく」
「ま、正則!?」
「へ?」
「あ……俺、なーんも見てねえから!」
繋がる想い
(いきなり部屋に来るなり正則はにやにやした顔で走り去りながら大声で清正となまえの熱愛発覚!と叫び散らしていた)
20100306
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