1059SS | ナノ

私の周りには髪の長い人が多い。

親方様は別として、姫様と甲斐様、ああそうそうそれから小太郎様もだ。


「くーっ!何これ最高!なまえってばすごすぎ、ちょー可愛いじゃないのこれ!」
「本当になまえは器用ね、見ていても楽しいし、やってもらえると尚更ね」
「ああもう姫様もめっちゃ可愛い!三つ編みをくるくるってして留めるの最高!」
「甲斐もよく似合ってるわ、ゆるくふわっとしたお団子のところがとても」


自分で言うのもなんだが、私は手先が器用な方だ。細かい作業は元より普通なら苛立つような地道なことも得意である。そして長くて綺麗な髪を見るとその人の雰囲気に似合った飾りや髪結いをしたくなってしまうのだ。今日も今日とて姫様と甲斐様の髪をお借りしていたのである。

毎度毎度快く承諾してくださるお二方には本当に感謝している、こんなにも綺麗で滑らかな髪を触らせて頂けて、なおかつ私に好きなように結わせてくださるのだから。


「むしろあたしたちが感謝してるっての、なんか今ならすっごいモテそうな気がする!」
「ふふ、甲斐ったら本当に嬉しいのね、私もいつもと違った気分に浸れて新鮮よ、ありがとうなまえ」
「ありがたきお言葉です」


喜んでもらえて何よりだ、姫様も甲斐様も元がいいから何をしたって似合う。高く結えばきりりと引き締まるし、低く垂らすように結えばしっとり落ち着いて見える。中くらいならはつらつとしているふうになる。全部纏めてしまってもよさそうだなあ、なんて次はどうさせて頂こうかと悩んでいると、私たちの間に風が髪をさらって弄ぶかのように勢いよく流れた。

目を瞬かせると目の前に影、さっきまではなかった壁ができている。いや、これは壁ではない。


「くく……子犬の毛繕い、か」
「小太郎様!」


するりとあごをすくわれ上を向かされ不思議な瞳と視線がぶつかる、形のいい唇が弧を描いて小太郎様はずい、とお顔を近付けてきた。近過ぎる距離に心音が乱れ顔が火照ってくる「あ、あの、小太郎様……」あごを捕まえられているせいで顔をそらすことは叶わず、控えめに離してほしいという意思表示は察してもらえないようだ。

私の羞恥などどこ吹く風である。


「ちょっとちょっと小太郎ォ!邪魔よあんた!」
「乱暴はいけないわ、小太郎」
「乱暴?我はなまえの顔をよく見たい、近頃どうも目の調子が悪いようで、な……」
「ハア?嘘言ってんじゃないわよ、いつも結ってある髪もわざと全部下ろしてるし!?なまえに触られたい魂胆が見え見えじゃないの!」
「おっと髪紐をどこかに落としたらしい、クク、困ったなあ……」
「わざとらしいわ!」


顎を捕まえられたまま至近距離で見つめられたまま、小太郎様がにんまりと笑う。言葉とは裏腹に、口調は全然困ってなさそうなのですが……。けれでも頻りに鬱陶しげに長い長い髪を払う小太郎様。


「よ、よろしければ結わえま」
「助かる助かる……我は嬉しい」
「小太郎ォオオ!」
「全く騒々しい子犬よ……なまえを我にとられてそんなに悔しいか……クク」
「あ、あの、あの小太郎様っ!」


吠え散らかす甲斐様、飄々と小太郎様はどこ吹く風、気が付けば抱き上げられていて浮遊感が襲ってきたのと同時に視界が一気に開けた。城の屋根へと移動されたらしい、もう姫様の声も甲斐様の声も聞こえない。

私の申し出は即行で受け入れられたのだがひとつ問題がある。小太郎様はその場にすとんとあぐらをかいて座られた、そこまではいい。私が背後に回ろうとしたところ、留められて小太郎様のあぐらの中で膝立ちの状態になっている。
ど、どういうことなのでしょう。この体勢で結わえろということでしょうか、かなりきついのですが……。


「我はこの方が具合がいい」
「私はちょっとやりにくいかなあ……なんて」
「できぬことは……あるまいよ」
「ぜ、善処します」


小太郎様は意地でもこのままやれという姿勢を崩さない、仕方がないこのままやってみるしかない。よし、と意気込んだものの小太郎様は髪の量もあれば長さもある、どうしたものかと考え込み、まずはいくつか小さく束ねてそれを一つにまとめよう。
動くのに邪魔にならないようにするには一つにまとめてしまうのが一番いい。

小太郎様は先と同じ……いや、それ以上ににんまりとして満足げにいい子だと呟いていた。

20170401
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