1059SS | ナノ

大学生は忙しい、講義にバイトに女子会に趣味のこと、一日が二十四時間じゃあ全然足りないと思う今日この頃、やりたいことがたくさんありすぎて。

それなりに忙しくて楽しくて仕方がない毎日を過ごしている私でも、少しばかり物足りないと感じることが時々ある、それは友人が恋人のことを心底嬉しそうに語っている時だ。

いわゆる惚気。

やっかみ半分なふうに思う時もあれば、ほのぼのきゅん、となる時も。要するに羨ましいということだ。

一体全体、私に春はいつ訪れてくれるのだろうか、北風の吹きすさぶ屋外を横目に、眠たくなる暖かさを保った室内でぼんやりとテレビを眺めてる。番組の内容は、恋人と行きたい観光スポットランキング。嫌味か。

「いいなあ」

ソファの上でお気に入りのクッションを抱え込みながら、何の気なしに呟いた。

「……なんだなまえ、旅行に行きたいのか」
「くく、鈍いな半蔵」
「……なんだと?」
「なまえはただ旅行に行きたいわけではない、恋人と行きたいのだ、なあなまえ?」
「……恋、人……だと!?」
「もちろんその役目は我が務めると相場が決まっている、我はなまえを愛しているからなあ」

何その一方通行、冗談だとしても全然笑えない、それに独り言で呟いたつもりだったのに返事が返ってきたことがありえないんだけど。だってここは私の部屋で、鍵もちゃんと掛けてたしドアチェーンもしてあったはず。

彼らは私の部屋の両隣に住んでる風魔小太郎と服部半蔵、なんでここにいるの。

「うぬが呼んでいる気がしたからなあ、半蔵」
「……応」
「いや呼んでない呼んでない、全然お呼びでないからね、帰れ」

それより仕事は?二人揃ってサボり?何それ社会人失格、テレビの液晶に向けていた視線を二人にやり、軽蔑の眼差しを向ける。

「くく……そういうなまえこそ、講義はどうした?」
「私はお休みですもん、祝日で……あ」
「……今日は祝日、故に会社も休みだ」

だからこうして堂々となまえの部屋に侵入してきたのだ、なあ半蔵。小太郎さんが半蔵さんに同意を求めた、半蔵さんはシカトしてた、私は侵入という単語に引っかかった。

考えてみれば思い当たる節がひとつだけある、さっき洗濯物を取り込んだ時にベランダの鍵を閉め忘れていたんだ、不覚!あの人達時々まるで忍みたいな動きをするから怖い。こんな人達が両隣の部屋って私不憫過ぎる。

「……旅行くらい俺が連れて行く、どこへでもお前の好きな場所へ」
「半蔵、さん」

私不憫とか思ってごめんなさい、やだもうなんか半蔵さんがすごいかっこいいこと言ってる、少なからずときめきを感じた私はじっと半蔵さんと見つめ合い……

「仕方がないな、3人で行くとしよう」
「小太郎さん寂しいなら素直にそう言ってください」

横から突撃してきた小太郎さんが私と半蔵さんの絡んだ視線をぶった切る。

「旅行に行くなら、カップルだらけの観光地は避けて静かに温泉に入りたいですね」
「……温泉か、賛成する」
「混浴もまた一興」
「小太郎さんは間欠泉にぶち当たって運悪くご逝去あそばせください」

全然キュン!なんてことはないけど、そういうときめきを欲すること自体を忘れられるこの時間と空間、雰囲気に私は大いに満足している。

春の訪れはまだまだ先でもいいかなって。




6thフリリクサルベージ
20131226
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